カメラ、携帯電話、PC──デジタルは日進月歩。比例して新品が過去のものとなる速度も増している。そんな身近なレトロが並ぶ博物館が人気だ。
ガラケーも今では博物館の資料
かつてどこの家庭にもあった固定電話は、1933年に黒電話として製品化されて以来、マイナーチェンジはあったものの、20世紀末まで通信インフラの主役だった。90年代後半から携帯電話が取って変わるが、10年も経たずにスマートフォンに座を譲り、「ガラケー」と揶揄されるようになる。そのスマートフォンも毎年のようにアップデートされ、数年で時代遅れとなりかねない。
固定電話の70年近い寿命に比べてデジタル機器の短命さには驚くが、これは電話だけではないだろう。開発、発売、流行、そしてコモディティ化。“デバイス”となった機器の新陳代謝は小刻みだ。前衛はいずれ後衛となる危険をはらんでいるが、メディアが辿るサイクルの加速とともに、遺物となるデジタル機器は年々増え続けている。
懐かしさと発見に満ちた宝の山
紙と石以外のメディアはすべて絶滅する──刺激的なキャッチコピーを掲げた東京・神田のユニークなミュージアム「絶滅メディア博物館」が連日賑わいを見せる。館長は動画のカメラマンでもある川井拓也さん。もともと数年に一回はフォーマットが変わることで使えなくなるムービー用カメラの展示からスタートしたが、「絶滅メディア」という名のインパクトもあり、またたく間にタイプライター、ワープロ、パソコン、携帯ステレオ、テープレコーダー、レーザーディスクなどの機器のほか、カセットテープやフロッピーなどの記録媒体が集まってきた。


LINEクローバやAmazonダッシュなど、汎用化に至らずに消えたレアものも少なくない。オープンして2年半ほどで現在の所蔵数は3000点(常設展示は1500点)を超えるが、8割は寄贈品だという。インバウンドの観光客なども含め、訪れる多くの人がかつての機器を手に取りながら、各々のノスタルジーを楽しむ。

だが、「絶滅種」は化石ではない。目まぐるしい栄枯盛衰は温故知新の可能性も広げる。レコードプレーヤーやコンパクトデジタルカメラも、廃れたはずが思わぬ復活を遂げている。それも単なる懐古にとどまらず、最新の機能でアップデートされているのが興味深い。
前のめりの進化からこぼれたデザイン、仕様にはまだまだ気づきの余地がある。かつて誰かに愛用された機器が流木のようにたどり着いた美術館は、次の鉱脈を見つける宝の山なのかも知れない。
絶滅メディア博物館 https://extinct-media-museum.blog.jp/
文=酒向充英(KATANA) 写真=植田翔
(ENGINE2025年7月号)