2025.06.23

LIFESTYLE

粋なダンディズムを音楽で表現するふたりのピアニスト 2025年はラヴェルの生誕150周年!

フレンチ・ピアニズムの第一人者、ジャン=エフラム・バヴゼ

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フランスのふたりのピアニストが、ラヴェルの音楽や関連作に潜むウイット、ユーモア、エスプリを奏で、個性的で聴き手の心身を活性化する録音を完成させた。

ラヴェルの生誕150周年

フランスには味わい深い音楽を紡ぎ出すピアニストが数多く存在し、ピアニストとして生き残るのは非常に大変だといわれる。そのなかで、ベルトラン・シャマユとジャン=エフラム・バヴゼは、デビュー当初から「我が道を行く」というスタイルを徹底的に守り、いまや実力派と呼ばれるようになった。



ベルトラン・シャマユは1981年トゥールーズ生まれ。ロンドンで「伝説のピアノ教師」と称されたマリア・クルチオに師事。ロン=ティボー・コンクール入賞後は国際舞台で活躍、ロマン派の作品を得意とし、現代の作曲家とも親しく交流している。

ラヴェルの演奏に定評があり、「ラヴェルには子どものころからいつも身近に寄り添ってきた」と語る。記念の年に誕生させた『ラヴェル・フラグメンツ』は、作曲家の残した断片や編曲、自身の編曲もの、さらにラヴェルにオマージュを捧げたさまざまな作曲家の作品を組み合わせて独特なアルバムに仕上げている。初めて耳にする作品も多く、いずれも音楽の奥からラヴェルの息遣いが聴こえ、不思議な世界へといざなわれる。ラヴェルの多様性に富む音楽の魔力に引き込まれそうだ。

ジャン=エフラム・バヴゼは1962年ブルターニュ地方のランニオン生まれ。1986年にケルンのベートーヴェン・コンクールで第1位を獲得。以後、世界各地のオーケストラと共演、プロコフィエフのピアノ協奏曲全集は高い評価を得ている。

ラヴェルのピアノ曲全集は彼にとって2度目の録音。高潔さ、エレガンス、豊かな感受性が込められたラヴェルのピアノ曲をバヴゼは作曲家への敬愛の念を示すように弾き込んでいる。各曲が内包するラヴェル特有の感性に肉薄し、作曲家の語りが聴こえそうなリアルな演奏だ。そのピアノはラヴェルの本質である官能的で幻想的で知的でクールな側面をすべて持ち合わせ、現代的な感覚と機知も含み、えもいわれぬ色香がただよう。

両者が演奏しているラヴェルの代表作のひとつ、「ラ・ヴァルス」は、「管弦楽のための舞踊詩」という副題をもつ。ディアギレフの委嘱により長年あたためていた交響詩「ウィーン」の構想をバレエ音楽として完成させたもの。ウィンナ・ワルツの讃歌あるいは幻想といえる作品をラヴェルは「興奮の渦巻きはだれをも魅せずにはおかない」と表現した。ウィンナ・ワルツの誕生からサロンの舞踏の様子、宮廷の豪華な夜会までが描かれている。

なお、初期の成功作で音楽史上初の印象主義による作品となった「水の戯れ」、技巧的難易度の高い「夜のガスパール」、若き日の傑作「亡き王女のためのパヴァーヌ」、挑戦的な「鏡」などが聴きどころ。これらはバヴゼの粋な演奏で堪能したい。

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)


■Jean-Efflam Bavouzet/ジャン=エフラム・バヴゼ
『ラヴェル ピアノ曲全集』バヴゼがラヴェルのピアノ独奏曲全集を初めてリリースしたのは2003年のこと。2度目となる今回のアルバムは、彼にとってラヴェルの演奏の集大成ともいえる録音。作曲家の魂にひたすら寄り添い、繊細な感性と抑制された表現、内省的で静謐でありながらときに高揚感と爆発するエネルギーに富む音楽を、バヴゼはラヴェルの「生々しい声」のように奏でる。熟成されたピアニズムが作品の内奥に秘められた本音をあぶり出す。(ナクソス)Photo:Paul Marc Mitchell


■Bertrand Chamayou/ベルトラン・シャマユ
『ラヴェル・フラグメンツ』10年ほど前、シャマユはラヴェルのピアノ独奏曲全集を録音。そのときに収録しきれなかった未発表作品、初期のマイナーな曲や習作をたどり、ラヴェル時代から現代にかけて書かれた作曲家たちの作品や自身の編曲を加えて音楽によるフラグメント(断片)を作り上げた。シャマユは、「生誕150年の記念に、オリジナルな作品なしにラヴェルのポートレートのようなものにした」と解説書に綴っている。(ワーナーミュージック)Photo:Marco Borggreve

(ENGINE2025年7月号)

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