春の時計見本市や新製品発表も一段落。新作が続々と店頭に並び始めた。ダイバーシティー=多様性の時代。より柔軟・自由な”新基準=ニュースタンダード”によって、今の自分にふさわしい一本を選びたい。8名のENGINE時計委員の目利きを参考に、この夏、一生つきあえる腕時計をセレクト!
コンスタンチン・チャイキン KOLOBOK(コロボック)
独創的な機構と奇想天外なデザインで注目を浴びる独立時計師が、ロシア、サンクトペテルブルク出身のコンスタンチン・チャイキン。
愉快な顔の表情が印象的なリストモンズ(リストモンスター)コレクションの「コロボック」は、ロシアのおとぎ話に登場する伝説のキャラクターがテーマになっている。
ジョーカータイムと呼ばれるディスク式の右目が60分、左目が12時間を表示し、6時位置の口はムーンフェイズとおとぎ話に登場するキャラクターによる曜日表示を兼ね、さらに物語はムーブメントのローターの装飾にも及ぶという遊び心満点の設計だ。
自動巻き。ステンレススティール、ケース直径40mm、3気圧防水。99本限定。価格要問い合わせ。
笑顔!の連鎖を生む時計 数藤 健
独立時計師の世界的組織「AHCI・独立時計師協会」の代表を務めたこともある腕利きのチャイキン氏が2003年に立ち上げたブランド。
会った印象は、真面目かつフランク(気さく)。彼が時計師を志したきっかけは、かのアブラアン=ルイ・ブレゲの仕事に感銘を受けたからだとか。
17年にバーゼルワールドで発表した「ジョーカー」で注目され、「ミニオンズ」「ニンジャ」「コロボック」と話題作を世に問うてきた。いずれも、3つの回転ディスクにより文字盤上の“表情”が時間の経過と共に刻々と変わる。既成概念にとらわれず、卓越した技術と芸術家的発想が融合した他の何物にも似ていない時計を選びたい……そんな愛好家は銀座・日新堂へ。手に取って見れば思わず笑顔になること請け合いだ。
時計機構を見事に擬人化 高木教雄
ディスク式の時分表示は、懐中時計の時代から試みられてきた。しかしこんな風に擬人化するために用いようとは、前代未聞だ。
左右に並列させて目を象った時・分の各ディスクは、常に回転し続けることでさまざまな感情を表現する。口の中ではリングが動いてムーンフェイズとして機能し、その背景では民話の7つのキャラクターを描いたディスクが回転して曜日を示す。
なんとも奇抜ではあるが、時・分の各ディスクをボンベ状にして表情をより豊かにし、自動巻きローターは15個のパーツで民話の世界観を表すなど造作に凝り、キャラクターウォッチをラグジュアリーへと見事に昇華してみせた。
作り手は、ロシア唯一の独立時計師。彼の創作が政治やイデオロギーに翻弄されないことを切に願う。
問い合わせ=ANDROS Tel.03-6450-7068
写真=奧山栄一
(ENGINE2025年8月号)