2025.12.05

CARS

ポール・スミスが語る“新しいミニ”! 最新コラボ「ポール・スミス・エディション」誕生の裏側

ジャパン・モビリティ・ショーの開催にあわせて来日したサー・ポール・スミスとミニのデザイン部門の責任者であるホルガー・ハンプさん。おふたりに、イギリスを代表する2つのブランドの最新コラボレーションについて話を伺った。

欲しい人が手に入れることのできるクルマに

ミニとポール・スミス。イギリスを代表する、2つのアイコニックなブランドのコラボレーションが始まったのは1997年のことである。両者の“協業”は途中、20年ほどのブランクはあったものの、2021年にワンオフ・モデルの「ミニ・ストリップ」を発表したことで再開。その翌年には1998年のコラボレーション・モデルを電動化した「ミニ・リチャージド」も披露している。

「実は今回のコラボレーション・モデルに関しては、ミニ・ストリップを発表した直後から話し合いを進めてきました。これまではすべて限定車だったりワンオフ・モデルだったりしたので、今回は欲しい人が手に入れることのできるクルマをつくりたかった。そこで新世代のミニ クーパーに、私のデザインを取り入れたミニ ポール・スミス・エディションを加えることになったんです」



前日、行われたエンジンの表紙撮影に続き、ジャパン・モビリティ・ショーの会場でインタビューに応じてくれたサー・ポール・スミス。この日は朝からプレス・カンファレンスに出席したり、各社の取材を受けたりと大忙しだったが、誰に対しても相変わらず気さくで、疲れたそぶりを見せることは一切なかった。

4車種のコラボモデルが登場

今回、サー・ポールのデザインが取り入れられたのは、電気自動車のミニ クーパーSE、そしてガソリン車のミニ クーパー、ミニ クーパー5ドアと、ミニ クーパー・コンバーチブルの4車種である。そのうちミニ クーパーSEのポール・スミス・エディションは、この度の発表をもって事前注文の受付を開始している。


▲MINI Cooper SE Paul Smith Edition.
上/日本全国のMINI正規ディーラーおよびMINIオンライン・ストアで事前注文を開始した電気自動車のミニ クーパーSE ポール・スミス・エディション。色はクラシック・ミニのベージュ・カラーをオマージュしたインスパイアード・ホワイト。下右/ドア・シルに刻印されたポジティブなメッセージ。下左/ルーフの後部にも「シグニチャー・ストライプ」が。


▲MINI Cooper 5-Door Paul Smith Edition.
内燃エンジン搭載のミニ クーパー5ドア ポール・スミス・エディションは来年5月頃に価格などの詳細発表&プレオーダーを開始予定。色は1959年のミニ・オースティン・セブンをモダンにアレンジしたステイトメント・グレー。下右/ホイールのセンターキャップにもサインが入っている。下左/シートやニット素材を使用したダッシュボードも、ポール・スミス・エディションの専用デザイン。


▲MINI Cooper Convertible Paul Smith Edition.
内燃エンジン搭載のミニ クーパー・コンバーチブル ポール・スミス・エディション。色はエレガントでクラシックなミッドナイト・ブラックII(そのほか2色の用意もあり)。来年5月頃に価格などの詳細発表&プレオーダーを開始予定。右下/フロアマットに施されたウサギのデザイン。左下/ドアを開けると地面に“hello”の文字が。気分がほっこりとする仕掛けだ。

「今回のコラボレーションで大切にしたのは、オリジナルのクルマの素晴らしさを残しながら、そこに私らしさを加えることでした。デザイナーとしての私の一番の強みは、やはり色の表現にあります。多くの自動車メーカーが、たとえばダークグレーにはライトグレー、ダークブルーにはライトブルーといった同色系をあわせることが多い中、私はあえて、よりコントラストの強い色を組み合わせてみたんです」

ポール・スミス・エディションのボディ・カラーには、専用色となるステイトメント・グレー、インスパイアード・ホワイトの2色、そして、ミッドナイト・ブラックIIの計3色が用意されている。そこにアクセント・カラーとして、ルーフやドアミラー・キャップ、ラジエーター・グリルのフレームなどにノッティンガム・グリーンという控えめで上品な特別色が採用されている。ちなみにノッティンガムとは、サー・ポールの出身地であり、彼が最初のショップを開いたイギリス中部の街の名前だ。

もともとサー・ポールのデザインは、“Classic with a twist(ひねりの効いたクラシック)”と評されることが多い。今回のコレボレーション・モデルでも、まさにひねりの効いた、ワクワクするようなデザインの冒険や仕掛けが随所に凝らされている。

そのひとつがサイドミラーに仕込まれたプロジェクターだ。ドアを開けると、“hello”というサー・ポールによる手書きの文字が地面に映し出される。



そしてドア・シルにはサー・ポールのモットーであり、ミニというブランドが掲げるメッセージでもある“Every day is a new beginning(毎日が新しい始まり)”の文字が刻印されている。まるで日々の相棒となるクルマが、ドライバーを気持ちよく迎え入れてくれるような洒落た演出である。



さらにフロア・マットには、サー・ポールが描いたウサギをモチーフにしたデザインが施されている。このウサギはサー・ポールにとっての幸運のシンボルだそうだ。



ミニのデザイン部門の責任者、ホルガー・ハンプさんによれば、

「このクルマでポールと我々デザイン・チームが表現したのは、人生に対する前向きな姿勢です。人は誰もが多かれ少なかれ、ストレスを抱えていますが、たとえば出勤時の朝、このクルマが“hello”と気持ちよくドライバーを迎えてくれることで、一日のスタートを少しでも明るくできるかもしない。そんな思いを、我々はこのクルマのデザインにこめてみたんです」

モノの見方を少しずらす

ところでサー・ポールとミニのデザイン・チームのコラボレーションはどのように進められたのだろうか。ホルガーさんが続ける。

「ポールは何度もミュンヘンに足を運んでくれましたが、そのたびに自分のスタジオからデザインのアイデアとなる、たくさんのサンプルを持ってきてくれました。私たちはそれを見て、彼のアイデアを研究しながら、なにが実現可能かを検討していくんです。そして今度は我々からの提案をポールが持ち帰り、逆に検討してもらう。そのやりとりはダイアローグ(対話)と呼ぶにふさわしいものでした」

もちろんミニのデザイン・チームが、ロンドンにあるサー・ポールのスタジオに出向くこともあった。そこでサー・ポールはクルマのアイデアにとどまらず、スタジオに置かれている自転車のことや、幸運のシンボルであるウサギのモチーフ、世界中のファンから届く手紙のことなど、様々な話をしてくれたそうだ。

「そういったポールの話は、我々デザイン・チームにとっても実に刺激的です。そこから生まれる数々のインスピレーションは、今回のようなコラボレーション・モデルだけでなく、ミニのデザイン全体の仕事に、直接的でなくとも生かされているように感じます」

そんなホルガーさんの話を受けてサー・ポールは、

「僕のアイデアは時折、過激とか奇妙とか言われることもあるんですよ」

と、笑顔で明かす。

「でもそれはチームのみんなを刺激するために、あえて言っているような部分もあるんです。現実的にはできないとわかっていても、あえて強い言葉でアイデアを投げかけてみる。するとそのままの形では無理でも、そこから派生した別のアイデアが生まれてくることがあります。そうやってみんなの想像力を刺激して、より柔軟に、固定観念にとらわれずに考えてもらう。それが我々のダイアローグのいいところですね」

いまの世界は均質化していて、どこへ行っても同じようなものばかりが過剰に生産されている。そんな状況に危機感を覚えるサー・ポールは、「モノの見方や考え方をほんの少し、違う方向にずらす」ことを日々、心がけているそうだ。





それでは最後に、これからのミニはどのような方向に進んでいくのだろうか。まずは、ホルガーさんに聞いてみると、

「ミニのデザインには、プロポーションなど、歴代モデルから受け継がれてきたDNAが今も息づいています。それは我々デザイン・チームがミニの成り立ちや歩みに対し、敬意を払い続けているからです。同時に我々は、今の時代にふさわしい、モダンで先進的なプロダクトを作り続けることを目指しています。常に前へ進みながら、決して過去を忘れないことがとても重要なんです。それは我々がポールとも共有する不変の価値観ですね」

丸いヘッドライトに短いオーバーハング、そして遊び心を象徴するツートーン・デザイン。どんなに技術が進歩しても、ひとめ見ればミニと分かる……。これこそがまさに、“進化するクラシック”と呼ばれ続ける所以なのだろう。そんなミニをサー・ポールは、

「1950年代の終わりに誕生したこのクルマは、60年代から70年代にかけて、ロンドン・カルチャーを象徴するような、クールなものとして扱われるようになりました。それが60年以上経った今でも、クールであり続けている。それはこれが人に見せびらかすような華美なクルマではなく、自分が自分らしくいられることを自然に表現できるクルマだからではないでしょうか。I am what I am.私にとってミニとは、そんな特別な存在ですね」





文=永野正雄(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦、MINI

(ENGINE2026年1月号)

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement