日本ではあまり知られていないが、欧州ではラリーで大いなる活躍をみせるA110。その中の1台が昨年からラリージャパンに参戦し、見事な成績を収めている。 今回はそのマシンの横に乗せていただき、戦うA110の走りを体感してきた。
アルピーヌA110の本格ラリーカー
愛知と岐阜に舞台を移してから今年で4回目を迎えたラリージャパンに、昨年からプライベーターのアルピーヌA110が1台参戦している。ターマックのWRCで設定されるRGTクラスを中心に戦っているチームだ。ドライバーはアルマン・フマル選手、コ・ドライバーはシュール・エスカルトフィグ選手で、シャゼル・テクノロジー・コースがサポートしている。
2024年のラリージャパンでは総合18位、2輪駆動クラス1位を獲得。その成績を上回るべく今年も来日し、WRC屈指のツイスティな難コースに再び挑んだ。結果は昨年と同じ総合18位、2輪駆動クラス1位。2年連続の好成績を残すことに成功している。

実はラリージャパンの1週間前に行われたテストデイで、本戦を走ったA110のラリーカーに同乗させてもらえる機会を得た。もちろんドライバーはアルマン選手。テスト用に設営された約3kmのコースで本番さながらの走りを味わえたのだ。
同乗したA110R-GTはWRCへの参戦を見据えて製作されたラリー競技専用車両。ラリーで勝利を手にするべく、ノーマルのA110をベースにいくつかの改良が施されている。一番大きな変更点はサスペンション。専用のサブフレームを用いることで取り付け位置を高くし、ストローク量を増やしている。もちろんスプリングやダンパーも専用品だ。また、変速機が3ペダルの6段シーケンシャルMTになっていることも大きな違いと言えるだろう。
1.8リッター直4ターボはSやR用の300ps仕様をベースに制御のマッピングを変更しターボの過給圧を上げることで330psへと出力アップ。また、ロールケージなどの装備を追加しているにもかかわらず、内装から快適装備を取り除き、サイドウインドウなどをアクリル製に変更するなどの軽量化が図られ、車両重量は市販モデルよりも軽い1080kgしかない。
強烈なGの連続
いかにも頑丈そうなX字のロールケージを跨ぎ、深いバケットシートに体を沈める。ヘルメットを装着しているので頭上空間はミニマムだ。メカニックに6点式のハーネスを締め上げられ、いざスタート。
まずはコースへ向けて公道を走る。遮音材や吸音材が取り除かれているため、変速機やデフの機械音が容赦なく室内に侵入する。ドライバーのアルマン選手とはヘッドセットがないと会話できないほど騒がしいものの、乗り心地は想像以上に快適。サスペンションはそれなりに締め上げられているはずだが、車両重量が軽いことが功を奏しているのだろう。脚も良く動いている。


それにしてもブレーキが良く効く。市販モデルよりもかなり強い制動力が出るみたいで、強烈な減速Gがおこるたび、頭と肩が前に持っていかれ、胴体には締め上げられたハーネスがさらに食い込む。朝飯を欲張らなければよかったと後悔している間に、スペシャルステージを模したコースに到着した。

テストとはいうものの、タイム計測も行われ、本番さながらだ。アルマン選手がカっと前を見据えた次の瞬間、A110はロケットスタートを決める。アスファルトの路面は湿り気味なうえに薄っすらと土が載っていて、いかにも滑りやすそうな状態だが、ミシュランを履く後輪はしっかりと路面を捉え、クルマを前へ前へと進める。加速は低めのギア比も手伝ってスーパースポーツカーのように鋭い。強烈な加速力に感心している間もなく減速を開始。そのあと間髪容れずに大きな旋回Gで体がバケットシートの縁に押し付けられる。

一連のGに耐えつつアルマン選手の操作を観察すると、コーナーの出口では修正舵を当てることも多いものの、入り口では適度な速さで切り込み、コーナーの途中でも切り足したり、カウンターを当てることもないことに気付く。外から見ているかぎり、コーナーの入り口ではまるで一般的な速度で交差点を曲がるような穏やかな操作に見えるのだ。
試乗のあと、そのことについて訊いたところ、軽くて前後の重量バランスがいいので、素早くコーナーに入れるのだという。それがA110の魅力だと答えてくれた。それにしても、よくぞこんな狭くて曲がりくねったところを驚くような速度で走っていく。クルマもドライバーも次元が違い過ぎる。
アルマン選手は、チームが勧めるもっと速い4WDマシンへのステップアップを断り、A110でラリーすることにこだわっているという。「2WDのA110では昔からのラリーのドライビングを楽しめから」とアルマン選手はほほ笑む。
A110の魅力はプロのラリーストも魅了するのである。
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=篠原晃一
(ENGINE2026年1月号)