2026.08.09

LIFESTYLE

夏に聴くオススメのクラシック フランス人音楽家の演奏で、粋で洒脱でウイットに富む音色を愉しむ

フランス人が紡ぎ出す演奏は特有の美質を備えている。楽譜を細部まで見る緻密さ、あふれんばかりの色彩に富む音色、個性的なリズム、すべてが聴き手を魅了する。

音色で魅せるフランス人音楽家3組 注目の新譜

甘美で官能的で幻想的な音色が印象的なフランスのヴァイオリニスト、ルノー・カピュソンは、息の合ったピアニストや音楽家と組んで幅広いレパートリーを録音してきた。長年共演を続けたのがピアニストのニコラ・アンゲリッシュ(1970~2022)。ショーソン「ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のためのコンセール」は2020年夏のコロナ禍直後のライヴ録音。カピュソンがアンゲリッシュの追悼盤として企画したものだ。



カピュソンの使用楽器は50年以上アイザック・スターンが愛用していた1737年製グァルネリ・デル・ジェス。この名器で香り豊かな歌を紡ぐ。アンゲリッシュはピアノをオルガンのように深々と鳴らし、緩急の付け方が自然で、演奏能力が問われる作品をひとつの戯曲のように弾き切る。以前インタビューしたアンゲリッシュは、とてもシャイで謙虚だったが、ピアノに向かうと雄弁な響きを発する。

さらにエベーヌ弦楽四重奏団も詩情豊かなアンサンブルを聴かせ、ショーソン「詩曲」の指揮者ステファヌ・ドゥネーヴも明晰な音をオーケストラから紡ぎ出し、かろやかさも披露する。

ジャン=ギアン・ケラスの自由闊達で独創性に満ちたチェロと、何が飛び出すかわからない不思議な魅力を備えたアレクサンドル・タローのピアノ。二人は30年前に意気投合して共演を重ね、相反する性格と人格を持っていながら音楽性は見事に一致、その歩みを新録も加えて2枚組のアルバムとして完成させた。

(C)Julien Mignot

二人のインタビューは丁々発止の対話が止まらず、タローが子どものころにバレエを習っていたといい出し、「踊ってみて」といったらケラスとともに踊り出し、大爆笑となった。ここに聴く作品の数々は、そんな二人の音の濃密な対話が凝縮。こんな友情をうらやむ人は多いだろう。

フランスとスイスの2つの国籍を持ち、2002年ジーナ・バッカウアー国際ピアノ・コンクール優勝のセドリック・ペシャは、「ゴルトベルク変奏曲」をはじめとするバッハの演奏で高い評価を得ている。彼が新たに挑戦したのは「フランス組曲全集」。自身の練習スタジオで自分の楽器(1901年製スタインウェイ・コンサート・グランド)を用いて録音した。

(C)Christian Meuwly

解説書では「今日の楽器では得がたい音の持続と特異な性質の響きを手にできる。歌を前面に押し出したいと思った」と語っている。そのことば通り、舞曲がときにチェンバロのように、あるときはクラヴィコードの響きのように表現され、聴き手は自然にバッハの時代へと導かれる。ある種の規定が備わる作品にペシャは遊び心と自由闊達さ、作品への深い愛着をにじませ、豊かな歌心を発しながら聴き慣れた「フランス組曲」に新たな息吹を吹き込んでいる。

Renaud Capucon  カピュソンとアンゲリッシュがコロナ禍の無観客コンサート・ライヴで唯一残したショーソン「コンセール」。コンセールとは17世紀のフランス宮廷で演奏され、舞曲を中心に小品が組み合わされている。ショーソン「詩曲」はブリュッセル・フィルとの共演。カピュソン特有の官能的で抒情的な弦の響きが横溢する。この初演は名手ウジェーヌ・イザイが担当した。(ワーナー)
■Renaud Capucon
カピュソンとアンゲリッシュがコロナ禍の無観客コンサート・ライヴで唯一残したショーソン「コンセール」。コンセールとは17世紀のフランス宮廷で演奏され、舞曲を中心に小品が組み合わされている。ショーソン「詩曲」はブリュッセル・フィルとの共演。カピュソン特有の官能的で抒情的な弦の響きが横溢する。この初演は名手ウジェーヌ・イザイが担当した。(ワーナー)/Photographer: Simon Fowler
/Copyright: 2021 Parlophone Records Limited

Cedric Pescia  セドリック・ペシャは以前から自宅でバッハの「フランス組曲」をクラヴィコードで弾いていたという。クラヴィコードは16世紀から18世紀に使用された鍵盤楽器、バッハをはじめとする作曲家が好んで演奏した。音量は小さいが、強弱がつけられる。そうした経験が生かされ、ペシャの「フランス組曲」は音色や響きを非常に重視して弾き分け、「歌」を意識させる。(ナクソス)
■Cedric Pescia
セドリック・ペシャは以前から自宅でバッハの「フランス組曲」をクラヴィコードで弾いていたという。クラヴィコードは16世紀から18世紀に使用された鍵盤楽器、バッハをはじめとする作曲家が好んで演奏した。音量は小さいが、強弱がつけられる。そうした経験が生かされ、ペシャの「フランス組曲」は音色や響きを非常に重視して弾き分け、「歌」を意識させる。(ナクソス)

Jean-Guihen Queyras & Alexandre Tharaud  ケラスとタローはお互いに「鏡を見ているよう」というほど似た者同士で音楽はピタリと合う。ただし、性格はまったく異なり、ケラスがおおらかで社交的、タローはひとりでいるのが好きで内省的。そんな彼らが30年の共演を記念し、美しい旋律に彩られた名曲や小品を集めて2枚組のアルバムにまとめ上げた。新録音も含まれ、二人の足跡が堪能できる。(ファインアーツ・ミュージック)
■Jean-Guihen Queyras & Alexandre Tharaud
ケラスとタローはお互いに「鏡を見ているよう」というほど似た者同士で音楽はピタリと合う。ただし、性格はまったく異なり、ケラスがおおらかで社交的、タローはひとりでいるのが好きで内省的。そんな彼らが30年の共演を記念し、美しい旋律に彩られた名曲や小品を集めて2枚組のアルバムにまとめ上げた。新録音も含まれ、二人の足跡が堪能できる。(ファインアーツ・ミュージック)

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2026年8月号)

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