塩澤 今回はイギリスの伝統芸能的スポーツカー2台です。かたやコーリン・チャップマンの軽量思想を1995年に蘇らせて以来、はや20余年のロータス・エリーゼの最新モデル、スプリント220。トヨタの1.8リットル直4にスーパーチャージャーを装着し、従来比40㎏の減量に成功しています。もう1台は、フォード・マスタングの3.7リットルV6と6段マニュアルを載せた、現行モーガンのなかでもっともパワフルなモデル、ロードスターです。
上田 エリーゼはいま、1.6リットルの自然吸気がカタログから落ちて、220から始まっている。エンジンの2ZR-FEは、海外ではオーリス(輸出名カローラ)に使われていたヤツですね。スーパーチャージャーつきで最高出力220psと25.5kgmを発揮してます。
今尾 ええっ! あれ、スーパーチャージャーが付いていたの? いまのいままで気づかなかった。スーパーチャージャーの音、していた?
上田 エキシージのV6のスーパーチャージャーはミャアミャア言うんですけど、こっちはあまり言わない。
塩澤 洗練されていたでしょ、すばらしく。ミラーというミラーが震えまくっていた初代エリーゼに較べたら、振動も少ないし、すばらしく扱いやすくなっている。
今尾 長尾峠がサイコーだった。4輪が接地しつつ、グイグイ曲がって行って、安心してアクセルが踏める。乾いた排気音もいい。
塩澤 ライトウェイト・スポーツカーといっても、マツダ・ロードスターとはぜんぜん違うし、ミドシップのアルピーヌA110は近いかもしれないけど、屋根が開かないし、ポルシェ・ボクスターは屋根が開くミドシップだけど、ボクスターはドイツ車だから全体に重々しい。エリーゼみたいに余分なものが何にもなくて、走ることに特化しているクルマはない。ライバルはいないね。
上田 パワーステアリングがないクルマなんて、もうないですからね。生ハンドリングというか。
今尾 エリーゼはでも、青空が見えるオープンの爽快感というよりは、空気が循環する気持ちよさだね。
塩澤 そもそもタルガトップだし、幌をつけていても、ないみたいなもの。ほとんど布きれだから。屋根も窓も、閉じていても外を感じさせる。まとっているものが薄いというか、屋根を開けていようが閉じてようが、差がないように僕には思えた。屋根が閉まっていてもオープンカー。
今尾 なるほどねぇ。ちっちゃくて軽い、カートに乗っている感じ。
塩澤 エリーゼはイギリスの伝統的スポーツカーと言っていいんですか。
今尾 イギリスの伝統というよりはロータスの伝統でしょう。ロータスというのは革新的なメーカーで、60年代のエランの思想を90年代に蘇らせたのがエリーゼだったわけでしょ。で、ロータス以前のイギリスのスポーツカーというと、ジャガーとかアストン・マーティンとか高性能GTを別にすると、代表的なのはMGで、チャップマンは大学で学んだ航空力学をクルマに持ち込んだ先駆者だった。とはいえ、塩澤さんの言うようにそれだって半世紀以上も前の話だから、ロータスの伝統はもはやイギリスの伝統になっているかもしれない。
塩澤 それに対して、モーガンは本当に古い。基本的に1936年に出たモデルをいまでもつくっているんだから。シャシーのフレームこそスチール製だけど、ボディのフレームはアッシュ(西洋トネリコ)という戦前のつくり方を守っている。おかげで、今回のロードスターもV6なのに車重980㎏と軽い。しかもいまでも手づくりで、これで商売が成り立っていることに僕は驚きます。
今尾 アッシュって、野球のバットの素材だからね。
上田 家内製手工業の民芸品。ごく最近、イタリアの投資家グループの投資を受け入れて、モーガン・ファミリーは筆頭株主ではなくなった。
今尾 ええっ! そうなの。
上田 お金ができたから、今年のジュネーブで発表されたプラス6も開発できた。
今尾 知らなかった……。でもモーガン・ロードスター、走り始めたら乗り心地がいいのに驚いた。すごくいいダンパーが使ってあるのか、と思ったら……。
塩澤 リアのサスペンションが、リジッドのまま、スプリングだけがリーフからコイルに換わっている。
今尾 知らないうちに化石が進化していた。だけど、ちょっと路面が荒れているとショックがそのまま伝わってくる。乗り心地はかなり堅い。
上田 僕、今回たまたま1.6リットル直4の4/4にも乗れたんです。そしたら、乗り心地がメチャクチャよかった。こっちだよ、こっち、という感じ。ロードスターはイギリスのライトウェイト・スポーツカーにでっかいエンジンを積んじゃったドラッグスターというか暴れ馬的なモデルで、借り出したとき、坂道でクラッチをつないだらキュキュッとリアがホイールスピンした。
塩澤 あれ、クラッチのリターン・スプリングが強い。しかもつながるのがホントに手前だから、慣れるまではドカンとつながる。しかも乗員はリア・アクスルの真上に乗っているから、入力がそのまま背骨に来る。
今尾 翌朝、身体が痛かった。なんか運動したっけ? と考えたら、モーガンに乗ったんだった。男っぽいというか、ホンモノのスポーツカーというか……。
上田 エリーゼがクラッチもアクセルもシフトもステアリングもバランスがとれていて、どれかひとつが重いとかひっかかるとかないから、スムーズに運転できるのに対して、モーガン・ロードスターはアンバランスだから、運転がむずかしい。
今尾 V6のあのトルクはローバーV8を積んだプラス8そっくりだとは思った。ギアチェンジしても何も変わらない。2速でも3速でも、ヘタすると6速トップでも、とにかくトルクが同じように出てくる。
塩澤 長尾峠の上りは格闘でしたよ。普通だったらこのぐらいで回れる、というところで、さらにもう半回転ぐらいステアリングホイールをまわさないと曲がれない。手アンダーが出やすい。フロントが長くて、リア・アクスルの上に乗っているから、後輪を中心にコーナリングしていく感じ。運転そのものはすごく楽しかった。なんとかして御したい、という気にさせる。でもこれ、ぜんぜんオープンカーの話にはなってないけどいいのかな。
今尾 モーガンを語りながら、オープンで気持ちがいい、と言うのも、いまさら、という気がしちゃう。早朝の撮影は寒かったし、オープンであることを満喫はしたけど。あれこそ正式なロードスターのカタチだからね。幌もサイド・ウィンドウも取り外し式で、オープンの状態が正しい状態で、幌は例外的な状況であるというスタイル。
塩澤 やっぱり、いいと思ったな、こういうクルマは。ツイードのジャケットを夏でも着るというイギリス人のスタイルを感じさせる。
今尾 コスプレだからカッコいい。
上田 古いクルマを新車でつくってくれる。僕は4/4が欲しくなった。
塩澤 新車で買えるクラシックカー。
上田 エリーゼもそうですけどね、テクノロジー的には。
今尾 モダンだけど、いまやネオ・クラシックですよ、エリーゼは。
塩澤 モーガンて年産850台なんですって。こんなのを毎年850人が買っているんだからスゴイ。
上田 日本は有望市場らしいですよ。90年代にケイターハムに乗っていた人たちが次に乗るのがモーガンなんですって。ケイターハムよりは楽で、趣味もある程度似ていて、買った値段とほとんど同じ値段で売ることができるところも似ている。
塩澤 見える世界も似ているもんね。ルーバーが切ってある長いボンネットとフェンダーが見えていて、『自動車に乗っている』という気持ちになる。僕としては、ハードコアなスポーツカー体験で、エリーゼが洗練ラグジュアリー・セダンみたいに感じられた。逆にエリーゼからモーガンに乗り換えると、なんて荒々しくて野蛮な世界なんだ、と。モーガン、いいなぁ。
今尾 エリーゼもよかったなぁ。
上田 オープン・スポーツカーはイギリスに限ります。
話す人=今尾直樹/塩澤則浩+上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬
(ENGINE2019年6月号)
ロータス・エリーゼ・スプリント220
モーガン・ロードスター
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