1年前から、私の家のガレージには2台のポルシェが並んでいる。長期リポート79号車の911カレラ4Sと、個人で長年所有するボクスターだ。いずれも2005年式でボクスターは3月登録、911は9月登録だから、911の方が半年ばかり新しい個体ということになる。ところが複雑なのは、911が996型の最終モデルであるのに対し、ボクスターが一世代新しい987型の初期モデルだということで、旧型911と新型ボクスターの間で、ある種のねじれ現象が起きているのである。
この1年間、平日は基本的に911に、休日はボクスターに乗ってきた。2種類のポルシェを日常的に味わえるなんて、いちポルシェ好きとして願ってもない幸運だが、それに加えてリポートする上でもこの2台は絶好の組み合わせだったと思う。すなわち、911とボクスターというモデルの違いに加えて、996型と987型の世代の違いがいかに大きなものであるかを、まざまざと実感させられることになったからだ。
911シリーズの歴史は、993型から996型にモデル・チェンジしてフラット6が空冷から水冷に変わったことが最大の転換点だと言われるが、いま乗ってみると、996型はむしろ空冷の旧世代に連なるモデルだと言いたくなるようなクラシックなテイストを色濃く持っている。パワー・ステアリングの手応えもペダルの踏み応えも、987型ボクスターに比べると同じ年式とは思えないほど重く、全体の乗り味も動き出しに始まり加速時、巡航時、減速時 のどんな局面でも、いかにもドイツ車然とした重厚感に満ち満ちている。
むろん、これは79号車が911の中でも4WDで、しかもワイド・ボディを持ったカレラ4Sであることにも起因するのだろうが、それを差し引いて考えても、この重厚感はそれ自体が996型の持つ独特の味わいだと言うべきだろう。サスペンションの動き方も独特である。路面の凹凸に対してしなやかに動くのではなく、むしろ鋼鉄の板のように硬いフロアで押さえつけるかのようにしてドシン、バタンと突き進んでいく。
コーナーでステアリングを切り込んでいく時には、いわゆる手アンダーが出ないように、一生懸命に切っていく必要がある。重さに加えて、次世代の997型から導入された、切り込んでいくにつれて速くなるバリアブル・レシオのギア比を持ったラックになっていないことが、これまたクラシックな味わいに繋がっているのだ。それは長いストロークを持ち、ちょっとフニャとした感触で最後にスコンと入る6段マニュアル・ギアボックスのシフト・フィールにも言えることだ。
その79号車から乗り換えると、987型ボクスターの軽快な乗り味と新しさは、いっそう際立って感じられる。オプションの可変ダンパーのPASMが付いていることもあり、足はずっとしなやかに路面の荒れをいなしていくし、コーナーでもミドシップのバランスのよさに加えてバリアブル・レシオのステアリング・ラックが採用されているから、スッと向きを変えてくれる。実際のところ、車重は1360kgで79号車より160kgも軽いのだから軽快なのは当然だが、数字以上に、絶対的な乗り味が軽快に感じられるように味付けされているのが大きいのだと思う。
こう書いていくと、私が自分のボクスターに軍配を上げようとしているように思われそうだが、いやいや79号車にはボクスターにはない決定的なアドバンテージがある。それこそが、ドンッと巨人の手で前に押し出されるような圧倒的なトラクションである。240psと320psというパワーの差以上に、ミドシップとリア・エンジンというレイアウトの違いが、あのトラクションの掛かり方の大きな差となって現れているのだろう。後軸荷重はボクスターの730kgに対して79号車は920kg! 一方、前軸荷重は630kgと600kgで79号車の方が軽いのだ。クルマの基本的な成り立ちがこれだけ違うのだから、乗り味がまるで違うのも当然である。
一度あのトラクションを味わうと、病み付きになってもう離れられなくなる。私もこの1年で確実にそういう身体になっているように思う。
総走行距離は8万9000kmを超えた。一番下の数字は平均燃費で都内ばかり走っていると6km/リッターを切ってしまう。
■79号車/ポルシェ911カレラ4S(996型)
PORSCHE 911 CARRERA 4S
購入価格(新車時) 340万円(1244万2500円)
導入時期 2017年4月
走行距離(購入後) 8万9007km(6622km)
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=柏田芳敬
(ENGINE 2018年7月号)
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