国内で圧倒的な人気を誇るブラックMOPダイアルに、両サイドにスーパールミノヴァを塗布し高い視認性を確保したバーインデックスを組み合わせた日本限定モデル。インダイアルをマットブラックにすることで、クロノグラフの視認性も良好だ。自動巻き。ステンレススティール、ケース直径44㎜、200m防水。限定300本。税別108万円。
ブライトリングの新型自動巻きクロノグラフが、イタリア空軍所属のアクロバット飛行チーム“フレッチェ・トリコローリ”のオフィシャル・クロノグラフとして誕生したのは1983年のことだった。その翌年、市販用モデルとしてデビューした『クロノマット』が世界的な大ヒットとなったことは前回紹介したとおりだ。
ブライトリングの製品は“プロフェッショナルのための計器である”というブランド哲学にもとづき、フレッチェ・トリコローリのプロのパイロットたちの要望をディテールの随所に取り入れた、ハイスペックな高性能クロノグラフとして完成させたことがヒットの大きな要因だった。が、それにもまして、世界中の時計愛好家を魅了したのは、機能的なディテールを積み重ねた結果として生み出された、それまでに類を見ない情熱的かつスタイリッシュなデザインだった。
クロノマットの成功は、ブライトリングの復興に大きく貢献したばかりではなく、クオーツが全盛だった当時の潮流の潮目を変え、機械式時計復活の流れを生み出したことでも大きな出来事だった。もちろん、機械式時計の復活といっても、古き良き機械式時計の黄金時代に時計の針を逆回転させたわけではない。高いパフォーマンスと斬新なスタイリングとの融合が、機械式時計の新たな魅力、そして新たな可能性の扉を動かしたのだ。その意味ではクロノマットを誕生させたアーネスト・シュナイダーは、今日の高級時計における機械式ムーブメントの絶対的な地位を築き上げるための礎となったスイス時計史のヒーローの一人でもあった。
1980年代から1990年代にかけて「クロノマット」を軸に、ブランドの伝統を継承した『ナビタイマー』、最先端技術を駆使したクオーツ多機能モデル『エアロスペース』の3つの柱によって躍進を続けたブライトリングだが、大きな転機となったのがアーネストの息子、セオドア・シュナイダーが経営を引き継いだことだった。セオドアは大手高級時計ブランドでキャリアを積んだ後、1989年に父が経営するブライトリングに入社し、副社長を経て、1994年にトップに就任した。彼もまた、ダイナミックな発想と緻密な戦略によって、父に勝るとも劣らぬ経営手腕を発揮する。
すでにパイロット・クロノグラフの第一人者という独自の地位を築いていたブライトリングだが、セオドアは、スイス屈指のテクニカル・ブランドとしてのポジションを絶対的なものとするため、時計本来の基本パフォーマンスである“精度”を徹底的に極める必要があると考えたのだ。その結論が、ブライトリングのすべての製品がC.O.S.C.公認クロノメーターを取得するという発想だった。
クロノメーターとは、スイスの公的機関であるC.O.S.C.(スイスクロノメーター検査協会)の厳格な精度検査に合格した高精度な時計だけに与えられる称号だ。通常、特別なシリーズや限定モデルにおいて徹底的に精度を追い込み、その結果、C.O.S.C.の検査によってクロノメーターに認定されるものだ。しかし、年間10万本を超えるメーカーが全製品をC.O.S.C.公認クロノメーターにするということは前代未聞の挑戦であり、ブライトリングはその空前のビッグプロジェクトをスタートさせたのだ。
まずクロノメーター取得を前提に、生産のすべての工程を徹底的に見直し、全行程で厳格なチェック機能を構築していった。目標に向けて多くの課題が山積していたが、ひとつひとつクリアしていき、ついに1999年に“100%クロノメーター宣言”を発表。その宣言通り2001年までに全製品をC.O.S.C.公認クロノメーターとして出荷することに成功したのだ。同時に新しい生産拠点“ブライトリング・クロノメトリー”をラ・ショー・ド・フォンに建設。その名のとおり、ブライトリングの全製品をクロノメーター規格として製造する戦略ファクトリーであり、2001年に完成し、2002年1月から稼働を開始した。
このブライトリング・クロノメトリーの完成をもって、ブライトリングの長期戦略が完結したかに見えた。が、実はそれは壮大な野望の前編に過ぎなかったことが後になってわかる。100%クロノメーターの実現から間もない時期に、新たなプロジェクトがスタートしていた。それはブライトリングがマニュファクチュールとしての第一歩を踏み出すための計画だった。マニュファクチュールとは自社で完全一貫生産を行なうことができるメーカーを意味する言葉だが、今日での意味は機械式ムーブメントを自社で開発し、製造できる時計メーカーを指す。
それまでブライトリングのムーブメントは、スイスで最も信頼の高いムーブメント専門会社であるETA社からパーツ単位で購入し、前述したとおりクロノメトリーにおいて厳格なチェック機能のもとでクロノメーターの精度に組み立てていた。スイス時計業界には多数の時計ブランドが存在するが、完全自社開発・製造ムーブメントを保有しているブランド、いわゆる完全マニュファクチュールはごく僅かしか存在しない。
実際、セオドア・シュナイダーは1990年代にブライトリングはマニュファクチュールになることが可能かどうか研究したという。その結果、少量の生産ならば実現できるという結論に達した。しかし、危なっかしい少量のムーブメントを自社製造し、マニュファクチュールであることを謳うことはブライトリングにとってまったく意味を持たないと決断し、その研究は白紙に戻したという。
しかし、100%クロノメーターを実現し、ブライトリング・クロノメトリーを完成させた後では話はまったく違う。これらはすべて、きわめて複雑なメカニズムを持つ自動巻きクロノグラフ・ムーブメントを自社開発し、工業的に生産するための基盤であり、マニュファクチュールを実現する計画の一環だったのだ。
5年以上の開発・テスト期間を要して、ブライトリングによる完全自社開発・製造ムーブメントが完成したのは2009年のこと。それが自動巻きクロノグラフ・ムーブメント「キャリバー 01」だ。しかも周囲を驚愕させたのは、この新型ムーブメントを搭載する機種がブライトリングのフラッグシップ・モデル、クロノマットであることだった。通常、数量限定のスペシャル・モデルを作り、そこに新型のムーブメントを搭載し、様子を見るのが自社開発ムーブメント・デビューの定番。しかし、年間数万単位で生産されるトップモデルにいきなり搭載してきたところに、ブライトリングの自社の技術に対する絶対的な自信が遺憾なく示されていた。
ブライトリング渾身の自社製ムーブメント、キャリバー01は、実際、2009年のデビューから10年を経てもトラブルの話はまったく聞くことがなく、それだけをとってもブライトリングは、ものの見事にマニュファクチュールへの第一歩を踏み出したといえるだろう。それは同時にブライトリングがスイス時計においてさらなるステージアップしたことを意味しており、そのフラッグシップ・クロノグラフであるクロノマットも洗練とラグジュアリーを纏いながら進化を遂げている。
今年発表されたクロノマットJSPも、ブライトリングの技術力に裏打ちされた高いパフォーマンスと情熱的なスタイリングが融合した、洗練の表情を湛えている。そこには、技術と美学が織りなすブライトリングのモダンヒストリーが息づいているようだ。
1984年の初代クロノマットに搭載され、2004年に登場した“エボリューション”まで続いたライダータブ付きのサテン仕上げベゼルを採用。1996年に発表された「クロスウィンド」譲りのスポーティなローマン・インデックスは、畜光塗料により昼夜を問わず最高の視認性を実現している。自社製キャリバー01の美しいムーブメントを、シースルーバックから見ることができるのもクロノマット JSPでは初めてだ。自動巻き。ステンレススティール、ケース直径44㎜、200m防水。日本限定500本。税別90万円。
クロノマットのリミテッド・エディションのなかでも常に高い人気を誇るMOP(真珠母貝/マザー オブ パール)ダイアル。2019年は、中でも人気が高いブラックMOPダイアルにスポーティなバーインデックスを組み合わせ、インダイアルをシックなブラックで仕上げたモデルが登場した。サファイアクリスタル製のケースバックからは、自社製キャリバー 01の美しい仕上げと動きを堪能できる。自動巻き。ステンレススティール、ケース直径44㎜、200m防水。日本限定300本。税別108万円。
マザー オブ パールの本来の美しさを堪能できるナチュラルMOPダイアルに、白と相性抜群のブルーMOP仕様のインダイアルをセット。クロノマットの持つスポーティかつマスキュランな印象に、爽やかでエレガントな雰囲気を加えた、300本のみの日本限定モデルだ。サテン仕上げのライダータブ付きベゼルを採用することで、“プロフェッショナルのための計器”というクロノマットの本質がしっかりと貫かれているのは見事。このモデルもサファイアクリスタル製のケースバックからは自社開発・製造のキャリバー01の動きを楽しむことができる。自動巻き。ステンレススティール、ケース直径44mm、200m防水。税別108万円。
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