ギター界にすい星のごとく登場したティボー・ガルシアは、スペイン人の父とフランス人の母のもと、1994年に南仏トゥールーズに生まれた。父親がギターを愛好していたため、7歳からギターを始め、すぐに才能が開花。パリ高等音楽・舞踊学校に進み、 在学中に各地の国際コンクールに参加。すべて優勝という快挙を成し遂げる。 「コンクールは若いときに受けたかったのです。歳でもっとも権威のあるアメリカの国際ギター・コンクールで優勝でき、ここからキャリアが 一気に開きました」欧米のコンサート・ツアーが組まれ、ワーナーミュージ ックと契約を果たし、学生生活が終了した途端、プロとしての活動が開始した。
「最初のアルバム『レイエンダ』は自分のルーツを意識し、 スペイン作品を収録しました。 アルベニスの〈アストゥリアス〉は通常の編曲版ではなく、 僕は恩師のオリヴィエ・シャッサン版で弾いています」 ピアソラの〈ブエノスアイレスの四季〉も含まれ、躍動感と情熱に彩られた調べを遺 憾なく発揮している。 「ブエノスアイレスの音楽祭 に参加したとき、会場が燃え るような雰囲気で心が高揚し ました。それを再現していま す。2枚目の『バッハに捧げる』は、父がよく弾いていた バリオスの〈大聖堂〉からス タート。バッハに影響を受けた作曲家の曲を選びました」
とりわけ印象的なのは、デュージャン・ボグダノヴィチ(55~)という旧ユーゴ出身の ギタリスト=コンポーザーの〈小組曲〉。これはガルシアが曲を委嘱しようと電話したところ、「いまちょうど出来上がった作品がある」と伝えられ、初演にこぎつけたもの。バッハの組曲のように舞曲で 構成されている。「僕はバッハが大好きで、ここではギターの可能性、音色の豊かさ、色彩感を探求する曲を選び、ギタリストとしてのアイデンティティも表現しているつもりです」
ガルシアは会う人をみな幸せにしてしまうようなナイスガイ。初来日公演には日本のギター界の重鎮が集結。「早熟の天才」「恐るべき精度と均質で美しい音色」と絶賛していた。彼の紡ぎ出す音楽は心の奥にしみじみと響いてくるもので、繰り返して聴きたくなる魔力を秘めている。どんな難度の高い箇所も自然に奏で、努力の痕跡はいっさい見せない。心が癒され、自然に目を閉じさせる不思議な力を秘めている。なお、11月公開の日本映画 『マチネの終わりに』では、若きギタリスト役で出演する。
子ども時代からJ.S.バッハに魅せられてきたガルシアの意欲作。バッハの曲から、バッハに影 響を受けて作曲された曲を集めた1枚。ソプラノとの共演も。(ワーナーミュージック)
アルベニス、マンホーン、ファリャ、ロドリーゴ、ピアソラ、タレガというラテン・ギターの伝説的 な曲を収録。各曲がその土地を描き出し、旅心を刺激する。(ワーナーミュージック)
文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
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