フロント・スクリーンの向こうに見えるのは、いまにも降り出しそうな鈍色の空。空しか見えなくなったのは、私が運転するジープ・グランドチェロキーが坂道の頂点に差し掛かったからだ。それぐらい斜度のある土の坂道をノソノソと登ってきた。ドライバーの私は怖いどころか、ニヤニヤしている。2.5トンもあるSUVで、降り立ったら滑り落ちてしまいそうな泥の急坂を登りきったのが嬉しい。ここは富士山の麓にあるオフロード・コースで、ジープの輸入元であるFCAジャパンがジープのオフロード試乗会を開催したのである。
ジープは独自に悪路走破性に基準を持っていて、特に高い4×4性能を有するモデルに「トレイル・レイテッド」のバッヂを与えている。過酷なオフロード試験に合格した証を持っているのは、ラングラーの全グレードと、レネゲード、コンパス、 チェロキー、グランドチェロキーのトレイルホークとなる。試乗会場には今年10月に輸入される予定のコンパス・トレイルホーク以外のクルマが用意されていた。
私はまず、限定100台のグランドチェロキー・トレイルホークで、コース・インしたというわけである。車高スイッチで地上高を上げ(エアサス)、4WDローのスイッチを 押せば、冒頭のようなことが難なく味わえる。2周目はヒル・アセント・ コントロール・スイッチを押したので、ガス・ペダルさえ踏まずに登った。
「トレイル・レイテッド」が、どのように認定されるかについては、本国から来たジープ開発担当のリッチ・ シルバート氏が説明してくれた。「バッヂを持つモデルのなかでも、 悪路走破性の高さはそれぞれ違います。最も高いのはラングラー・ルビコンです。評価はトラクション、地上高、接地性、機動性、渡河性能という5つで行います。たとえば、トラクション性能は、1速のギア比× トランスファー・ケース4Lの減速比×最終減速比で数値化しています。 数値をクロール・レシオと呼び、ラングラー・ルビコンが 79.2 : 1と 最も高く、レネゲード・トレイルホ ークは 20.4 : 1になります。渡河性能テストでは50km/hで水深20cm のコースに入り、跳ね上げた水がエンジンや電装系に支障を与えないか?などもチェックします」。
性能試験を実施する場所は、ジー プの聖地にして最も過酷なオフロー ド・コース「ルビコン・トレイル」 だと言う。「ルビコン・トレイル」を走ったことのある私は、花崗岩に覆われた全長35 kmの凄まじいコースを思い出した。
いよいよオフロード最強モデル、ラングラー・ルビコンでアタック開始だ。副変速を4Lに入れる。ここまでは毎日乗っている長期リポート車、ジープ・ラングラー・アンリミテッド・サハラでも出来る。ルビコンはさらに前後のデフロックとスタビライザー切り離しが可能だ。
スタビライザー切り離しスイッチを入れたときのサスペンション・ストロークが半端ない。タイヤが外れちゃったんじゃないかと思うほど伸びる。モーグルと名付けられたコースには、左右に大きな段差が設けら れていて、レネゲードやグランドチェ ロキーだと、車体が大きく傾き、3輪しか接 地しないのだが 、ラングラー・ルビコンは4輪が見事に地面を掴んで事もなげだ。ロールも小さい。林の中を行くコースには、クルマが前のめりに前方回転受け身するんじゃないかと思えるほどの下り急勾配もあった。そんなときのために、ヒル・ディセント・コントロールを備えている。これでドライバーはステアリング操作に集中できる。下りのスピードはシフトレバーをマニュアル側へ倒し、+で調整が可能だ。
荒れた路面での乗り心地が素晴らしいのにも感心した。岩を乗り越えるときも、穴だらけの道を進むときも、ドーン!というショックがない。3.6リッターV6は低速でも力強く、悪路をグイグイ進んでいく。ラングラー・ルビコンに2リッター直4ターボの設定がない理由がわかった気がした。10km/hでも走行感覚はスポーティだ。まだまだいける。進入禁止の テープを無視してもどうにかなるかもしれない。ラングラー・ルビコンでコースを走っていると、どんどんそんな気持ちになっていく。「トレ イル・レイテッド」のバッヂは、ドライバーに勇気を与えるものでもある。未知なる体験へ挑戦したくなるジープに乗って若返った。人生も死ぬまで挑戦だ。
文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
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