今、ロンドンの現代アートの美術館、テート・モダンで開催されている、オラファー・エリアソン(1967年デンマーク 生まれ)の個展、「In Real Life」が大きな話題となっている。これは、彼の27年間のアーティストとしての業績を振り返る大規模な展覧会だ(会期は 2020年1月5日まで)。
「Beauty」暗い展示室の天井から降ってくるミストにスポットライトを1本当てることで、オーロラのように動く小さな虹を鑑賞者は見ることに。1993年に作られた、初期の作品の改訂版。 Beauty, 1993 Photo: Anders Sune Berg © 1993 Olafur Eliasson2003年に同じテート・モダンのホールを使ったインスタレーション、「ウェ ザー・プロジェクト」で、なんと200万人を動員し、「アート界のスーパースター」と評されるようになったオラファー。 彼の作品の特徴と言えば、巨大な展示空間に鑑賞者が身を置く、没入型の知覚を揺さぶる作品が多いこと。時には、鑑賞者が作品の一部になることも。チームラボのような、最近のクリエーター集団に通じる部分もある。
オラファーも、ベルリンの巨大なスタジオで、大人数のスタッフを抱え作品を制作しているのだ。大きな違いは、最先端の技術を用いるのではなく、光や水、霧などの自然現象を作品に応用していること。原理はシンプルだが装置は綿密に計算されており、作品の背景には繊細なテーマがちりばめられている。
「Water Fall」周囲を近代的なビルが取り囲む都会の中に、人工的に作られた滝から流れ落ちる水から、自然の力の凄まじさが感じられる。 Waterfall, 2019 Photo: Anders Sune Berg © 2019 Olafur Eliasson
例えば「Your blind passenger」は、霧で殆ど視界が無い中を、勘を頼りにトンネルの中を歩く作品だ。普段は安全な美術館の展示室の中で、突如視界を失った時のちょっとした「不安」は、予想しえないものだろう。この展覧会は、ロンドンの後は、スペインはビルバオのグッゲンハイム美術館に巡回する予定だ。
「Your blind passenger」霧が立ち込め1.5mしか視界の無い中で空間を、鑑賞者は視覚ではなく感覚で進むことに。Din blinde passager , 2010 Photo: Anders Sune Berg © 2010 Olafur Eliasson秋以降に日本でもそんなオラファー・エリアソンの作品が日本でも楽しめる。彼は、稀にプロダクトを手掛けることがあるが、この10月には、ルイスポールセンでペンダントライトの発売を予定している。光を使った作品の多いアーティストが手がけた照明は、作品よりもはるかに現実的な価格だ。
また来年、東京都現代美術館での大規模な個展も予定されている。「エコロジー」をテーマにしたもので、詳細は追って発表されるが、「東京ならではの展示構成を検討中」(同館)なので、ロンドンの展覧会を観た方でも、十分に楽しめるはずだ。期待したい。(オラファー・エリアソン ときに川は橋となる 2020年6月9日(火)~9月27日(日))
「OE Quasi Light」デンマークの照明メーカー、ルイスポールセンから、直径90cmもある結晶のようなペンダントライトを発表。アルミで作られ た正20面体の12の頂点の裏側にLED光源が埋め込まれ、ポリカーボネートでできた、内部の正12面体のそれぞれの面を照らす構造。10月発売予定。147万円。(ルイスポールセン Tel.03-35 86-5341)
Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles
文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)
(ENGINE2019年10月号)