19世紀に当時の最先端素材である、特殊紙を重ねた“ヴァルカン・ファイバー”を採用して以来、トラベルケースを作り続けてきたグローブ・トロッター。エリザベス女王やウィンストン・チャーチル卿らセレブリティに愛用され、南極探検やエベレスト登頂など多くの冒険家たちにも選ばれてきた。その老舗トラベルケース・メーカーが、創業から120年余り経った今年、新たな100年を見据えて、最先端のカーボン素材を使った「AERO(エアロ)」コレクションを発表した。
このプロジェクトのデザイン・エンジニアリング・ディレクターに抜擢されたのは日本人の吉本英樹氏。東京大学で航空宇宙工学を学んだ後、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に進むという異色の経歴を持つ。現在、ロンドンにあるデザインスタジオ「タンジェント」を率いて、工学、デザイン、アートと、領域を超えたユニークな活動が注目されている。
今回のプロジェクトのねらいについて、吉本氏はこう説明する。
「120年変えてこなかったことを変える、というブランドにとってのイノベーションに立ち会えたことを、とてもうれしく思っています。一緒に考えたコンセプトは“宇宙旅行時代のスーツケース”。AEROには、100年後、定番になってほしいという想いを込めています」
プロジェクトは3年前、素材の研究開発からスタートした。
「ヴァルカン・ファイバーという素材の面白さを、今の時代にどう表現するかを意識しました。見た目のマット感や柔らかな弾性をカーボンでいかに出すかが、最も重要な課題でした」
ロケットや飛行機に使用される最先端のカーボン素材を作る、東レ・カーボンマジック社の技術協力を得て、新たに「エアロ・カーボン」を開発した。吉本さんはカーボンの焼き方にもこだわったと語る。
「カーボンは炭素繊維と樹脂を型にそわせて焼くのですが、そのとき剥がしやすいように敷く離型紙を、意図的にザラついたものにしました。するとカーボンの表面も微細にザラついて光を乱反射させるので、マットでしっとりとした質感になり、指紋とかキズがついても自然な味わいになるんです」
実際にAEROを手にすると、その軽やかさに驚く。それは実際の重量としてだけでなく、斜めに入ったカーボンの織目がマットな質感と相まって、ブラックなのに重たさを感じさせない。機能面では、グローブ・トロッターで初めて4輪ホイールとTSAロックを備えた。
「今回はAEROのインスタレーション、発表の仕方とか、PRイメージの作り方までかかわることができました。広い意味でのデザインとは、ブランドひいては企業そのものの理念を表現することだと思うんです」
この秋発売されたAEROは、4輪ホイール付きスーツケースと、2輪ホイール有無のキャビンケースの計3種類。グローブ・トロッターのさらなる100年がスタートした。
デザインエンジニア。1985年生まれ、和歌山県出身。2008年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業、2010年同大学院修士課程を修了。同年日本人工知能学会全国大会優秀賞、2013年LEXUS DESIGN AWARDなど受賞多数。2016年英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート博士課程を修了。同時にロンドンにてTANGENT(タンジェント)を設立。工学、デザイン、アートと、領域を超えたユニークな活動が注目されている。9月14日からロンドン・デザイン・フェスティバルでTANGENT初の個展を開催する。
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
文=山元琢治(ENGINE編集部) 写真=鈴木 勝/GLOBE-TROTTER
2024.12.02
CARS
順調な開発をアピールか? マツダ次世代のロータリー・スポーツ、アイ…
PR | 2024.11.27
CARS
14年30万kmを愛犬たちと走り抜けてきた御手洗さんご夫妻のディス…
2024.11.24
CARS
これこそ本物のドライバーズ・カーだ! メルセデス・ベンツEクラスと…
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…