上田 こうしてゴルフを見ただけで、現在のクルマが社会的・技術的に置かれている立場がよく分かります。
佐野 世界的に電動化に進むことになっているけど、完全な電気自動車(EV)ではいまだ従来の内燃機関の完全な代わりにはなりえない。もろもろの都合で、今回のゴルフGTEのようなプラグイン・ハイブリッド(PHEV)を絡めてでも電動化を強引に進めざるをえないと。
齋藤 クルマが本当に普及したといえるのは、軽自動車のように、みんなが何も考えずに買って乗るようになること。今はGTEもeゴルフもゴルフRと同じく、まだまだ贅沢で高級なゴルフでしかない。
上田 いま日本で最も安いゴルフが258万9000円(TSIトレンドライン)だから、今回の3台の価格はおよそ2倍前後にも達します。
佐野 eゴルフも現時点では、航続距離や充電時間などの利便性や実用性を少し犠牲にせざるをえない。いろんな優遇があるし、エネルギー費用もガソリンや軽油よりはるかに安い。それでもEVで経済的にモトを取るのは現状むずかしい。
齋藤 ゴルフはもともとジウジアーロによって、極めて合理的な実用車として登場したわけだよ。
上田 で、日本では長らくクルマ好き、ドイツ好き、イイモノ好き……といった人々を惹きつけてきた。中でも趣味的な要素が強かったのが、ホットハッチの始祖ともいえるGTI。
佐野 そのGTIよりさらに趣味的なのがR。個人的には4輪駆動だからホットハッチと認めたくないけど。
齋藤 実利と価格のバランスを考えると、eゴルフやGTEも同じく、GTIやRと同じ趣味のためのゴルフ……というのが実情だよ。
上田 最近はテクノロジー的に最先端という観点から「電気で走るゴルフもほしい」というメカ好きや、新しモノ好きもいるでしょうね。
佐野 それにしても、ゴルフRは何度乗ってもホレボレする。速さは文句なし。乗り心地も超絶に快適。全身が洗練のきわみだもの。
上田 これに乗るとスポーティなゴルフの中心的存在はもはやGTIではなく、Rだと思ってしまいます。
齋藤 あえてFFにこだわるGTIの魅力はもはや様式美であって、ノスタルジックななにかを愛でるためのゴルフになりつつある。
佐野 GTIは70年代から伝統のバッジをつけて、わざわざチェック柄のシートにしているくらい。
上田 ……という魅力を、新しいEV/PHEV時代で表現しようとしているのがGTEというわけです。
齋藤 それにしても、今回の3台は姿カタチはもちろんゴルフそのもので、価格も400〜500万円台という似たようなレンジにおさめてあるわけだけど、三車三様で捨てがたい楽しさがあることに感心するよ。
佐野 電動嫌いの齋藤さんでも、eゴルフを楽しめた?
齋藤 確かに個人的にはEVは嫌い(笑)。自宅に充電設備もないし、乗るときには500〜1000㎞くらいは一気に走りたい人間だから根本的にEVには向いていない。ただ、そういう人間でもeゴルフは純粋に気持ちいいし、面白い。
上田 変速機がないからシフトショックがなく、モーターも超絶にスムーズ。今さらいうまでもなく、スタートダッシュや実用速度域ではゴルフRより速いくらいだから。
佐野 EVの構造はとにかくシンプルだから、走りにノイズや雑味が入らない。そこがクールといえば確かにクール。バッテリー残量が十分あって、しかも最高速150㎞/h以下の速さは掛け値なしにホット。
上田 ゴルフRはその対極だけど、同じくらい洗練されている。これは旧来的なメカニズムの究極。2ℓとしては史上最高レベルのパワーを高度な4WDとサスペンションで安全に扱えるんですから。しかも乗り心地もすさまじく快適で、この複雑なメカが見事に洗練されきっている。
齋藤 とにかく、ゴルフRはゴルフのサイズにこれだけのメカを詰め込んで複雑に制御しても、これほど滑らかに走ることに驚きだよ。
佐野 でも、そうやって内燃機関が約100年かけて培ってきた洗練を、eゴルフは簡素な構造でシレッとやっている。「電気でやれば、そんなのチョチョイのチョイなんすよ」と笑われている気すらしてしまう。
齋藤 その中間的存在のGTEも単なる環境車じゃないところが上手い。最大50㎞以上EV走行できるかと思えば、"GTEモード"でターボ・エンジンに電気をアドオンしたフルパワーで稼働させれば、瞬間的な速さ感はGTIより鋭いくらい。
上田 GTEはほかにも走行モードがいくつもあって、あえて走行中にバッテリーに充電して、しかるべき場所やコースでそれを使えたりもします。ただ、GTEは走らせると、eゴルフほどスムーズではないし、感触もどこか人工的で、Rのようなスカッと抜ける速さでもない。
齋藤 パワートレインとしては純粋なゴルフRやeゴルフと比較すると、どうしてもギクシャクとした動きが出やすいのは事実だね。
佐野 GTEの構造は複雑怪奇。でも、それがまさに現代のクルマの苦悩そのものでもある。内燃機関と電気を行ったり来たりのギクシャク状態。ただ、齋藤さんの大好きなF1の現行パワーユニットに最も近いのはGTEといえなくもない。
齋藤 F1は好きだし、ハイブリッド技術の"知恵"には感心するしかないけど、自分で乗るなら、純粋に燃える内燃機関でないと"萌えない"。
佐野 齋藤さんは純粋にメカニカルな"機械"が好き。気持ちは分かる。
齋藤 ただ、スカッと操る楽しみは薄くても、その複雑なシステムをうまく使いこなして、いかに内燃機関と電気のいいとこ取りして走るか……という"THINKING AMUSEMENT=頭脳的な楽しみ"がある。実際、GTIなみに速い。500万円近いゴルフとしては贅沢な価格にも、だから説得力がある。
佐野 GTEにも可変ダンパーが付いていて、乗り心地や操縦性はさすが"GT"を名乗るだけのことはある。これに較べるとeゴルフは、路面が悪いときに乗り心地は少しドタバタする。
上田 それは今のゴルフが旧来の内燃機関に最適化されているからですね。新しいID.3が使うEV用プラットフォーム"MEB"はその部分も一気に進化しているはずです。
齋藤 タイヤにしても長い時間をかけて内燃機関のクルマと一緒に進化してきたわけで、EVの重量やトルク特性を考えると、今までの延長線上にあるタイヤの構造やサイズでいいのかはまだ分からない。
上田 だからなのか、eゴルフの走りも、電気モーターの特性をもっと前面に押し出しているテスラなどより、ずいぶん控えめな気がする。
佐野 そのあたりは内燃機関に慣れ親しんだ人間の感覚も含めて、まだまだ手探りの部分はあるだろう。
齋藤 でも、今回感心したのは、eゴルフの乗り味が思っていた以上に良かったことだ。
佐野 えー、EVは生理的に受けつけないという齋藤さんがっ!?
齋藤 失礼な、そこまで偏屈ではないよ(笑)。ただ、乗り心地に少し改善の余地があるとはいえ、eゴルフがRに匹敵する洗練された乗り味なのは驚いた。今まで乗ったどのEVよりも洗練されて操りやすいパワートレインはさすがVWだ。
上田 1台のハイブリッド車(HEV)としては十二分によくできているGTEがギクシャクして感じるのも、それだけeゴルフのデキがいいから。これにゴルフRのシャシー・セッティングや駆動系の技術をうまく取り込めたら、それこそ究極のゴルフになりそうな気すらした。
佐野 そんなゴルフRから250万円台のガソリン車、ディーゼル車、GTI……。そこに電気を融合したGTEやeゴルフまでそろう現在のゴルフは、あらためて並べると驚くべき"よりどりみどり"状態だ。
上田 VWは良くも悪くも、かつてはビートル、70年代以降はゴルフで食べてきた会社だから、なにをやるにもまずはゴルフからなんでしょ。
齋藤 こうして1台のクルマにありとあらゆる選択肢があって、しかもそのほとんどが日本で買える。考えるとすごい時代だけど、今回の3台がきちんといいクルマなのは、それだけゴルフ自体が優秀だからだよ。
佐野 あと、電動化はゴルフだけの話ではなく、クルマ産業そのものの現状であって、メーカーは苦悩してもいる。各国政府は一気にEVに移行させたいのに、世の中がそう簡単にEVに移行できるわけではない。結果として、EVはどんどん出てくるけど、内燃機関の進化も止まることなく、過渡期の仮の姿であるはずのHEVやPHEVも消えない。
上田 今のような時代が10〜20年、もしかしたらそれ以上ずっと続く可能性もあります。EVに未来が開けているのは当然としても、内燃機関もさらに進化していく未来があるし、HEVやPHEVの時代も思っている以上に長く続きそうです。
佐野 考えてみると、クルマにこれほど多様な選択肢が用意されていた時代はほかにない。今のような混沌状態が続くと、自動車メーカーは本当に大変なんだろうけど……。
齋藤 メーカーの苦悩には同情するけど、クルマ好きには意外と希望にあふれた時代かもしれないね。
話す人=佐野弘宗(まとめも)+齋藤浩之+上田純一郎(ともにENGINE編集部) 写真=郡 大二郎
■フォルクスワーゲンe-ゴルフ・プレミアム
駆動方式:フロント横置きモーター前輪駆動 全長×全幅×全高:4265×1800×1480㎜ ホイールベース:2635㎜ トレッド 前/後:1545/1515㎜ 車両重量:1590㎏(前軸重量880㎏:後軸重量710㎏) モーター/エンジン形式:交流同期型電動機/− バッテリー/ボア×ストローク リチウムイオン/− 総電力量/排気量:35.8kWh/− 最高出力(モーター/エンジン):136ps/3300-11750rpm/− 最大トルク(モーター/エンジン):29.5kgm/0-3300rpm/− トランスミッション:1段固定式 サスペンション 前/後:マクファーソンストラット/マルチリンク ブレーキ 前/後:通気冷却式ディスク/ディスク タイヤ前/後:205/55R16 車両本体価格(10%税込)544万8000円
■ゴルフGTE
駆動方式:フロント横置きエンジン+モーター前輪駆動 全長×全幅×全高 4265×1800×1480㎜ ホイールベース:2635㎜ トレッド 前/後 1535/1510㎜ 車両重量:1580㎏(前軸重量910㎏:後軸重量670㎏) モーター/エンジン形式 交流同期型電動機/水冷直列4気筒DOHCターボ バッテリー/ボア×ストローク リチウムイオン/74.5×80.0㎜ 総電力量/排気量 8.7kWh/1394cc 最高出力(モーター/エンジン) 109ps/150ps/5000rpm 最大トルク(モーター/エンジン) 33.6kgm/20.9kgm/1500rpm トランスミッション 6段デュアルクラッチ式自動MT サスペンション 前/後:マクファーソンストラット/マルチリンク ブレーキ 前/後:通気冷却式ディスク/ディスク タイヤ前/後:205/55R17 車両本体価格(10%税込)477万9000円
■ゴルフR 駆動方式
駆動方式:フロント横置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高:4275×1800×1465㎜ ホイールベース:2635㎜ トレッド 前/後:1535/1510㎜ 車両重量:1510㎏(前軸重量910㎏:後軸重量600㎏) モーター/エンジン形式 −/水冷直列4気筒DOHCターボ バッテリー/ボア×ストローク −/82.5×92.8㎜ 総電力量/排気量:−/1984cc 最高出力(モーター/エンジン) −/310ps/5800-6500rpm 最大トルク(モーター/エンジン) −/38.7kgm/1850-5700rpm トランスミッション 7段デュアルクラッチ式自動MT サスペンション 前/後:マクファーソンストラット/マルチリンク ブレーキ 前/後:通気冷却式ディスク/通気冷却式ディスク タイヤ前/後:225/40R18 車両本体価格(10%税込)579万9000円
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.10.25
LIFESTYLE
LANCIA DELTA HF INTEGRALE × ONITS…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「キュビタス」を徹底解説…
advertisement
2024.11.16
こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
2024.11.15
自動車評論家の国沢光宏が買ったアガリのクルマ! 内燃エンジンのスポーツカーと泥んこOKの軽自動車、これは最高の組み合わせです!
2024.11.15
GR86の2倍以上の高出力 BMW M2が一部改良 3.0リッター直6ツインターボの出力をさらにアップ
2024.11.20
抽選販売の日時でネットがざわつく 独学で時計づくりを学んだ片山次朗氏の大塚ローテック「7.5号」 世界が注目する日本時計の傑作!
2024.11.16
ニスモはメーカーによる抽選販売 日産フェアレディZが受注を再開するとともに2025年モデルを発表