2017年の「デファイ ラボ」発表当時より改良を進め、振動数を10万8000/時から12万9600/時にアップ。理論上の日差は±0.3秒の高精度を誇る。自動巻き。チタニウム×アエロナイト、ケース直径44㎜、10気圧防水。税別204万円。
「340年も前に開発されたシステムに依存し続けている業界なんて、腕時計以外にありますか?」2013年に、当時タグ・ホイヤーの開発部門責任者だったギィ・セモン氏にインタビューした際、彼はあまりにももっともな不満を口にした。現在の機械式腕時計はすべて、1675年にオランダの物理・数学者ホイヘンスが開発したヒゲゼンマイに精度調整を委ねている。セモン氏は、340年間の"呪縛"から腕時計を解放することを画策していた。
その後、LVMHグループ全体の先端技術開発を担うポジションに就いた彼は、ヒゲゼンマイによらないどころか、調速脱進機構全体をシリシウム(シリコン)製のワンパーツに統合したオシレーターの開発を推進。2017年秋、ゼニスからこれを搭載した「デファイ ラボ」が10本限定で発表された。その量産モデルとして、今年登場したのが「デファイ インベンター」だ。
このオシレーター、更なる量産化が可能だという。現状よりも小型化が進めば、女性用モデルにも搭載可能だろう。LVMHの他のハイブランドに供給されるようになれば、一気に広がる可能性を秘めている。高精度に加え、電池不要でエコ&サステナブルな未来のスタンダードの第一歩として、語り継ぐに値するものだろう。

まつあみ・やすし
1963年生まれ。集英社を経て92年よりフリー。エディター/ライターとして時計、ファッション、インタビュー等の取材・執筆を手掛ける一方、自身のユニットMAZZAMiZMで音楽活動も展開。松山猛氏の作詞によるコラボ楽曲も配信中。
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