ヴァナキュラー建築という概念がある。モダニズムのような普遍性を持つスタイルとは異なり、その土地の風土、土着性に密着した建築だ。使われるものはもちろん地元の素材で、現地の環境に適した特性が快適な空間の実現に寄与する。この概念に通じるプロダクトが、インドネシアのピランティ・ワークス社のスペダギバンブーバイクだ。
バンブーといっても日本の孟宗竹とは似て非なるもので、現地では大規模な建築構造体に使われるほどの剛性を持つ。これを集成して強度を高め、フレームに使用している。黒と白の接合部のメタルがデザインのアクセントとなり、バンブーのプリミティブな印象を心地よく裏切るスタイリッシュな仕上がりに。
手がけたのは、同国を代表するプロダクト・デザイナーのシンギー・カルトノ氏。だが、スペダギはただの商品名ではない。自転車を漕ぐという意味のスペダ、朝のパギというインドネシア語を組み合わせ、「朝、自転車で村を回り、抱えている問題を解決する」という思いを込めた造語。
その背景には地域格差への危機意識がある。都市への人口集中により、彼の故郷であるテマングン県カンダンガン村でも若く有能な人材の流出が社会問題となっていた。
打開策となったのが、群生し放棄されるバンブーの有効利用を実現したソーシャルビジネス。成長の早い特性を生かして自転車の生産拠点とし、地元の雇用を確保、村のイメージを高めることで地方の自立を目指す仕組みだ。
こうした社会性を持つデザインとコンセプトが高く評価され、2017年から2018年の国際機関日本アセアンセンターと日本デザイン振興会との共同プロジェクト「グッドデザインセレクション」に選出、さらに日本の審査委員会が認定するグッドデザイン賞ベスト100、そして最終的に金賞という快挙を成し遂げている。
日本でもこのアイデアに賛同する動きがあり、山口や東京の多摩で地元の竹を使った自転車の開発が始まった。国ごとの差異が大きいアジア諸国だが、竹類の強くてしなやかな生命力は共通する。それぞれの風土を生かしたサスティナブルなエコの芽吹きに注目しつつ、今後の広がりに期待したい。
文=酒向充英 写真=杉山節夫、Spedagi
(ENGINE2020年4月号)
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