アストン・マーティンのフラッグシップ・モデル、DBSスーパーレッジェーラのオープン・バージョン。エレガントな電動開閉式のソフト・トップは8層構造の非常に凝った造り。フロントに搭載される5.2ℓV12ターボ・ユニットは最高出力725ps/6500rpm、最大トルク91.8kgm/1800-5000rpmを発揮。ZF製の8段ATを介して後輪を駆動。0-100km/h加速は3.6秒、最高速度は340㎞/hに達する。全長×全幅×全高=4715×1970×1295㎜。ホイールベース=2805㎜。車両重量=1864㎏。車両価格=3796万円。
最高出力725ps、最大トルクは91.8kgmという5.2ℓツイン・ターボのモンスター・エンジンを後輪だけで走らすパッケージから、じゃじゃ馬的な乗り味を想像するが、巧みな電子制御で拍子抜けするほど乗りやすい。とはいえ、前後重量バランスは整えられているが、さすがにエンジンが重いからか、若干フロントがフワフワする時はある。しかし、それは走行モードをノーマルにしている時に、うねる路面を高い速度で走った場合。スポーツ・モードにするとすべてがダイレクトになり、多少コツコツとした乗り味になるが、無駄な車体の動きがなくなってグランドツーリング・カーからスポーツカーへと大きく変貌する。
この変貌する特性は、ルーフの開閉においても現れる。オープン時はボディに適度なしなやかさを備えたデート・カー向きな穏やかな乗り味。しかし、クローズドにすると、ビシッとしたボディ剛性が手に入り、微操舵にも反応するハンドリングやトラクションの良さなど、サーキットも走れる運動特性が得られるのだ
やっぱり12気筒ってスゴイ。右足指に力を込めた瞬間というか、体感的にはその直前から、身体がシートバックにムギューッと押しつけられて、わずかでも力をぬくと、わずかだけど明確に減速Gが出て、前タイヤにピタリと荷重がのる。電気自動車は人間の操作と加速にタイムラグがまったくなくて、クルマが転がり出した瞬間から最大トルクが出るからイイ……とよくいわれて、まあ実際そうなのだが、そういう部分については内燃機関でも12気筒だけは別格である。
いい意味で、電気に匹敵する繊細なリアリティと大砲のようなトルク感がある。しかも、高回転でのえもいわれぬ甘美な歌声、減速での豪快なアンチラグ音は、電気ではありえない生命の息吹だ。いま買える12気筒にはロールス、ベントレー、メルセデス、BMWもあるが、生粋のスポーツカーはフェラーリにランボ、そしてこのアストンくらいか。しかもこれフルオープンカー。生々しくダイレクトに味わう12気筒は、こんなにスゴイ。
以前、DB11のV12ターボ・モデルに初めて乗らせていただいた際は「ターボ化でアストンV12の官能フィールが失われた」と思ったものでした。ところがこのDBSは、同系統のV12ターボであるのに、フィーリングは別物。全域スーパーなレスポンスで吹け上がり、ターボらしく上から下まで超パワフル! それでいて、全身総毛立つような自然吸気V12の色香を漂わせ、ターボとは思えない甲高い回転フィールでブチ回るのです。このすさまじい贅沢感!
それに輪をかけて贅沢なのは、やはりこのスタイリングでしょう。美しい。美しすぎる。まさに「美しさは完全無欠」とひれ伏すしかありません。その完全無欠の美がヴォランテになっているのですから、なにもかもがスーパー贅沢。水色メタリックのボディ・カラーも、超絶派手なのになぜかシック。インテリアもバリバリ派手なのにセンス抜群の竜宮城。オープンで海岸線を流せば、贅沢すぎて気が狂いそうでした。
DBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテは究極のGTだ。クーペに対し100㎏重たくなったはずなのに、それを感じさせないほど軽やかで、そのノーズに5.2ℓのV12ツイン・ターボを搭載していることが信じられないくらいよく曲がる。どこかブリティッシュ・トラッドなヒラリヒラリとした乗り味で、屋根を開け放って走ると、この上なく贅沢な気持ちになれる。
とはいえ、そんな優雅さの裏に、アストン・マーティンらしいどう猛さもきちんと併せ持っており、アクセレレーターを踏み込むほどにドラマは盛り上がりを見せて行く。V12サウンドは本当にターボなのか? と疑いたくなるほどクリアで硬質。シャシーは725ps/91.8kgmのパワー&トルクを余裕で受け止めながら「これ以上行ったら知らないからな」という雰囲気を伝えてくるところが過保護過ぎず嬉しくなる。ここで慌てることなく、リニアなレスポンスのステアリングを切り、じわりとトラクションを掛けて行くと、DBSは美しくコーナーをクリアしていく。それは正に恍惚な瞬間なのだ。
21世紀に入ってから向こう、FRスポーツカーというカテゴリーにおいては完璧なプロポーションを提供し続けているアストン・マーティン。とりわけDBSスーパーレッジェーラは最新のディテールもちりばめながらも、ボディとタイヤ、タイヤと乗員との位置関係などをみるに、DB9から続くクラシックなスタンスを守り続けている。そのヴォランテ=オープン仕様となるこのモデルも、実際には何層にも重ねられた幌の形状からして薄く小さく見せようという古典的な美意識が感じられ、クーペにも増しての繊細な佇まいに繋がっているように伺える。
一方で走りはゴリゴリに肉感的な一面も持ち合わせるが、それとてドライブ・モード如何では意図なく顔を覗かせることもない。見せ場の内装もオーナメントに大胆な素材や配置を用いる一方で、基本的な骨格はトラディショナルなT字対称レイアウトだ。概ねにおいて伝統を前提としながら、新しさを破綻なく織り交ぜていく。やはりDBシリーズこそがアストンの本筋だと再認識させられる。
(ENGINE2020年4月号)
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