2020.05.09

CARS

もっともスポーティなポルシェ・マカン 新型GTSにポルトガルで乗る 引き締まった乗り味が素晴らしい!

ポルトガルで開かれた718 ケイマン&ボクスターGTS4.0の国際試乗会では、もう1台、新型マカンに追加されたGTSモデルにも乗ることができた。Sとターボの間隙を埋める、ニッチ・モデルの走りはどうだったか?

ポルシェというのは、ひたすら真面目にスポーツカーづくりに邁進してきた頑固一徹のメーカーのようでいて、実は柔軟にマーケットの意向を読むのに極めて長けた商売上手の一面も持っている。そもそも、スポーツカー専業メーカーだったはずが突如として節を曲げ、SUVのカイエンを世に出して大成功を収めた一事をとってもそれは明らかだが、近年、その象徴とも思えるのが"GTS"というモデルの存在である。


現在のポルシェのラインナップの中にあって、グランツーリスモスポーツを意味する"GTS"の名称は、"S"(すなわち、スポーツ)以上"ターボ"未満という位置付けにある。Sでは満足できないが、ターボまでは要らないというカスタマーの意向を汲み、まずは2007年にカイエンに導入し、これがまんまと大成功を収めたことが、すべてのモデルにGTSを設定する現在のラインナップ構成に繋がっているわけだ。




GTS の文法に則り、ブラックを基調にして、素材にはアルカンターラを多用したインテリア。ステッチやシートベルト、レヴ・カウンターのレッドとのコントラストがスポーティな印象をもたらしている。



レヴ・リミットは6800rpm。ターボとまったく同じだ。


モデルチェンジに際しては、まず素のモデルやSがデビューして次にターボを追加し、タイミングを見計らってGTSを投入するという順序も確立されているから、さらにGT3やGT4、そのRS版が加わるスポーツカーを除いて、GTSの登場は、その世代のモデル・ラインナップの完成を意味することになる。今回のマカンGTSがまさにそれだ。


モデルチェンジからそれなりの歳月を経て熟成してきたところで、さらにエンジンをパワー・アップして足回りを固め、見た目にもほかのモデルとはひと目見て違うようなコスメを施した上で、しかもほとんどフルオプションに近いカタチで出るのだから、デキが悪いわけがない。そう言ってしまっては身も蓋もないのだけれど、結論から言ってしまえば、今回乗った新型マカンGTSも、まさに完成形というに相応しい、非の打ち所のない出来映えの1台だった。では、どこがそんなに良かったのか、詳しく見ていくことにしよう。


エンジンはターボと同じ

開発エンジニア氏によれば、GT系のモデルを持つ911や718ケイマンなどとは違い、マカンのラインナップにおいては、このGTSがもっともスポーティなモデルとなる。なによりも、その点を一番意識して開発に臨んだのだという。


端的に言えば、Sやターボとの味付けの違いをどう際立たせるかということだろう。同じV6でもシングル・ターボのまったく違うエンジンを搭載するSはともかく、このGTSが搭載する2.9ℓV6ツインターボ・ユニットは、ターボに搭載しているものとハードウェア的にはまったく同じものだ。コンピューターによるコントロールの違いによって、ターボの440psをデチューンして380psにしているのだ。


両車の性格づけの違いは、ターボが飛び抜けてパワフルでいながら快適であることを目指しているのに対し、GTSはもっともスポーティでエモーショナルな要素を重視している点にあるという。その結果、GTSではパワーよりもレスポンスの良さを重視して、よりダイナミックな走りに対応できるようにエンジンがチューニングしてあるのだとか。


足回りの設定も、ターボがエアサスを標準装備するのに対し、GTSは車高を標準より15㎜低く抑えたコイル式の専用チューンを施されたアダプティブダンパー(PASM)付きのサスペンションを採用している。これは同じコイル式を採用するSと比べて15%ほど硬くなっているという。また、ブレーキも大径のものが奢られている。一方、GTSでも快適性が欲しいとか、オフロードを走る時に車高を上げたいというのなら、さらに10㎜低められたエアサスをオプション装備することも可能だ。


あとは見た目の違いがかなり大きい。GTSのお約束であるブラックを多用した外観は、ちょっとワルを感じさせるくらいノーマルの印象とは異なっている。同じくブラックを基調とした内装も、乗り込むだけでキュッと引き締まった気分にさせる。



ターボと同じアウディ製の2.9ℓV6ツインターボを搭載。


ヘッドライト内部もGTSの文法に則りブラックに塗られる。


実際より小さく感じられる

その見た目の印象に違わず、走り始めてすぐに感じた印象も、これはきわめて引き締まった乗り味のクルマだな、というものだった。決してボディがコンパクトなわけではないのに、実際より小さく感じられるのは、少し重めのステアリング・ホイールの操作に対するクルマの動きが俊敏で、余計な遊びがほとんどないからだろう。私が乗った試乗車はオプションのエアサス付きで、足が固められていることはハッキリわかったものの、乗り心地はまったく犠牲にされていなかった。標準のコイル式だともっと固く感じられるのかもしれないが、その分、さらに引き締まったハンドリングになるのなら、そちらにも乗ってみたい気がした。


もちろん、このクルマの引き締まった印象はハンドリングからだけではなく、エンジンのレスポンスからも来ているのだと思う。アクセレレーターの操作に対するパワーの出方が実にリニアで、ターボ・エンジンとは思えないくらいに吹け上がり感が気持ちいい。そして、踏んでいった時のエグゾースト・ノートがちょっとやりすぎではないかと思うくらい演出されているが、これはご愛嬌。


山道では、これはまさにスポーツカーの走りそのものだと感じさせるような、気持ち良いコーナリングを見せてくれた。よく曲がるし、とにかくどこから踏んでも速い。それなのに過剰な感じはまったくなく、ロールも適度なら動きも穏やかで、エンジンのパワーの出方もピーキーではないから、とにかく走れば走るほどもっと走りたくなるような、疲れを感じさせないクルマなのだ。


最初に、完成形というに相応しい、と書いたのはこういうことだ。突出させるのではなく、熟成させることによってもたらされたスポーティさ。ポルシェの底力が発揮された1台だ。


文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ポルシェA.G.


■ポルシェ・マカンGTS


駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4686×1926×1609㎜
ホイールベース 2807㎜
トレッド(前/後) 1650㎜/1658㎜
車両重量 1910㎏
エンジン形式 V型6気筒DOHC24V 直噴ツインターボ
排気量 2894cc
ボア×ストローク 84.5×86.0㎜
最高出力 380ps/5200-6700rpm
最大トルク 53.0kgm/1750-5000rpm
トランスミッション 7段自動マニュアル(PDK)
サスペンション(前後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク/モノブロック・キャリパー
タイヤ(前/後) 265/45ZR20/295/40ZR20
車両価格(税込み) 1038万8889円


(ENGINE2020年5月号)

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