6年前に日本人としてアメリカの名門ジャズレーベル、ブルーノートと初めて契約した黒田卓也。その唯一無二の個性が光る新作、『フライ・ムーン・ダイ・スーン』が素晴らしい出来栄えだ。
黒田卓也は、2014年に日本人として初めてジャズの名門ブルーノート・レコードと直接契約を結んだトランペッター。それ以前からシンガーのホセ・ジェイムズのバンドに参加したりしていたが、そのホセが黒田の才能を広く世に知らしめたいという思いでプロデュースを買って出たのがデビュー盤『ライジング・サン』だった。続いて2016年にはコンコードからメジャー2作目『ジグザガー』を発表。その一方、MISIAやJUJUの作品とライブに深く関与して、彼女たちのジャズシンガー的な可能性を広げてみせもした。
そしてこの度リリースされるのが約4年ぶりの3作目『フライ・ムーン・ダイ・スーン』だが、これは前2作とはまるきり異なる意識で制作され、アルバム全体でひとつの大きな物語を表現しているようだ。『ライジング・サン』はディアンジェロを想起させるネオソウル的な楽曲が目立ち、ホセの色合いも濃く出ていた。『ジグザガー』はカラフルな楽曲でトランペッターとしての個性を強く表していた。その2作で自己紹介を済ませた黒田が初めて約2年の長い時間をかけ、1曲1曲の細部にまで徹底的に拘りながら全身全霊で取り組んだのが今回の新作であり、「自己中心的な表現が終わったあとのアルバムという感覚」だと彼も言う。
実際、自身のトランペット・ソロを前に押し出す場面はそれほど多くない。「それはライブでやればいいことであって、今回は"アルバムでしかできないことをする"という意識で取り組んだ」と話す。その代わりというわけではないが、今作では自身で作ったビートを基に曲を構成し、キーボード、シンセ・ベース、パーカッションなど様々な楽器を自分でプレイ。それをバンドの演奏とブレンドさせている。つまり音響を含めたサウンド・クリエイトに時間をかけ、頭の中にある音の景色を忠実に具現化しているのだ。
1曲目「フェイド」と3曲目「チェンジ」はトロンボーン奏者のコーリー・キングがヴォーカルを担当。「フェイド」におけるコーリーの歌声は中性的で、曲の美しさを一層のものとする。またオハイオ・プレイヤーズのカヴァー「スイート・スティッキー・シング」はエイミー・ワインハウスの歌い方に似たアリーナ・エンギバーヤンという歌手が気だるめのソウルを表現。そのように歌の乗った曲とインストゥルメンタルが合わさりながら展開していくこのアルバムは、決してジャズという一ジャンルで括ることのできないもの。黒田卓也という音楽家の唯一無二の個性と魅力が初めて明確に立ち現れたとも言える最高傑作だ。
文=内本順一(音楽ライター)
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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