エンジン"ホット100"ランキング、選考委員が選んだ20年間の集大成! 第6位にランクインしたのは、なんと一世代前のアウディの旗艦、R8だった。
20世紀のスーパーカーといえば、威嚇的なスタイリングと獰猛なエンジンが愛でられる一方、ダイナミクスはドライバー任せという物件が主流を占めていた。そこに一石を投じたのが人間本位設計で信頼や安全も担保したホンダNSXだったわけだ。
初代アウディR8は、そのNSXのコンセプトを独自の知見で21世紀的に進化、拡張させたモデルだと思う。西川さん言うところの「NSXが続いていたらV10を積んだR8のようなクルマになっていただろう」という指摘は、僕も07年、初めてこのクルマに乗った時に抱いた印象だ。
独自の知見とは何かといえば、もちろんクワトロだ。先出のランボルギーニ・ガヤルドとはアーキテクチャの共通項も多いが、これは当初から織り込み済み。そこにアウディはロング・ホイールベース化を筆頭とした独自のディメンジョン設定と共に、彼ららしい前輪側の駆動をしっかり効かせた配分制御を加えた。
斎藤聡さん曰く「アウディの夢であったミドシップ・スポーツカーを、ビスカスカップリングを用いた4WDで実現」した初代R8は、結果、従来のミドシップでは望めなかった高い限界能力と旋回安定性を得ることができた。村上さんの「プレミアムカー・メーカーがつくった本格スーパー・スポーツカーは、驚くほど乗りやすくエモーショナルだった」という感想や、今尾さんの「V8モデルは軽快で運転しやすい。往時ニュルを走って感激した」というエピソード、大井さんの「初代のV8モデルはとてもバランスの良いスポーツカーだった」という想い出は、いずれもこのモデルが当時群を抜く操縦性を誇っていたことを裏付ける。また、桂さんのように「高い操縦安定性に支えられて魅惑のV10サウンドが後方で吠える」と、V10モデルの気持ちよさを推す声もある。
初代R8は、ユニークなデザインでスーパーカーのモードに一石を投じた点でも記憶に残るモデルだ。
「その独創性の高さは初代TT誕生時以来の衝撃」という河村さんの声には僕も共感する。そしてパーフェクトなメカニズムに前衛的なルックスの組み合わせは、荒井さんの「まったくスキのない完璧主義で構築されたクールさ」という感想や、小川さんの「熱い。でも冷めている、いい意味で」という余韻に代表されるように、イタリア勢とはまったく異なるアプローチでスーパーカーの新しいエモーションを示したわけだ。
九島さん曰くの「アウディが大真面目につくったスーパーカー」は、大谷さん曰くの「快適なスーパー・スポーツの歴史を切り拓いたパイオニア」となった。五味さんは「余裕のある最低地上高など、気を遣わず普段使いが出来る仕上がり」とシティ・ユースの柔軟性を、嶋田さんは「ロングも楽々なGT性能に、雨でもその気なら踏める懐の深さ」を評価している。個人的にも豪雨の中、500㎞走った際の安心感は忘れられない。それでも、初代R8の一番の魅力はと問われれば、僕も金子さんと同じく「精密機械のように、変速すること自体が乗る目的になる6段MT」と答えるだろう。徹底的に突き詰めた精緻さは、その触感さえアウディらしい官能を纏わせていた。
■アウディR8(スパイダーを含む)/初代(先代型)
全長×全幅×全高=4431×1904×1249㎜、ホイールベース=2650㎜、車両重量=1630㎏。最高出力=420ps/7800rpm、最大トルク=43.8kgm/5500rpmの4.2リットルV8直噴ユニットをミドシップに縦置きで搭載し、6段MTないしは6段自動MTを介して4輪を駆動する。
文=渡辺敏史 写真=神村 聖
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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