現在全国ロードショー公開中の映画『小説の神様』を観た。小説の神様と言っても志賀直哉が出てくるわけではない。中学生で文壇デビューした高校生、千谷一也(佐藤大樹)はスランプに陥っており、次作がなかなか書けずにいる。千谷が通う都立高校に、小余綾詩凪(橋本環奈)が転向してくるのだが、こちらも正体を隠している人気作家だ。
出版社の編集担当が二人に共作を持ち掛けたところから、二人のストーリーは編まれていく。ときにぶつかり合い、ときに励ましあいながら共作を進めていく王道の青春ストーリーなのだが、二人が持つ心の傷が丁寧に描かれているから、クライマックスへの展開には、映画を観ながら二人を応援する気持ちになる。
小余綾詩凪を演じる橋本環奈の瞳の美しさ、千谷一也を演じる佐藤大樹のイケメンぶりを楽しみにする若い観客も多いだろうけれど、千谷一也の父を演じる片岡愛之助の抑えた演技に感心した。
千谷一也の父は他界した設定で、売れない小説家だった。彼は夕飯の時間を伝えに来た息子に言う。
「いまは書く時間なんだ。だからひたすら書く」
いい文章を生むには書き続けるしかない。物書きの一端として、頷けるシーンだった。
そして、誰のために書くのか? 答えは映画のなかにある。
『小説の神様 君としか描けない物語』全国公開中
配給HIGH BROW CINEMA
©2020 映画「小説の神様」政策委員会
文=荒井寿彦(ENGINE編集部)
(ENGINEWEBオリジナル)
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