コロナ禍でリモート・ワークが中心になったいま、地方移住を考える人が増えている。長野県信濃町の「ふるさと移住体験施設」で5日間を過ごしてみた。
コロナ禍でリモート・ワークという新しい働き方がスタートした。出勤しなくても仕事に支障がないのなら、都心に住む必要がないと考える人が増えているのではないか? 東京生まれ、東京育ちの私が長野県信濃町の「ふるさと移住体験施設」で5日間を過ごしてみた。
長野県信濃町は黒姫山、妙高山など北信五岳を臨み、野尻湖に隣接する。地区の集会所を住居に改築した「ふるさと移住体験施設」は、スキー場で有名な斑尾高原へ続く片側1車線の県道沿いにあった。道路の向こう側はこうべを垂らした稲穂がずっと続き、あちこちに咲くコスモスが秋を告げていた。山を下りてくる風は東京と違い、凜としていて気持ちがいい。
移住体験施設内はとても綺麗だった。フローリングの床が気持ちいいリビング、オープン・キッチン、寝室となる和室、庭へ続く土間など、どこも居心地がいい。電化製品は一通りそろっているし、風呂もスイッチひとつで沸く。ただし、スーパーまではクルマで10分かかる。
着いて最初に感動したのは、空の色の変化だ。ブルーからオレンジへ、そして稜線を真っ赤に縁取りながら沈む夕陽を見ていると、"今を生きている"という実感がわいてくる。インテリアは自分で工夫できるけれど、景色はどうすることもできないから、移住における風景はとても大事だと思った。
この地で暮らす人々の本来の姿を垣間見るために、一般社団法人「Farmstayしなの」が主催する蕎麦打ちとボタゴショウの佃煮作りを体験した。講師は近くに住む黒田健一郎さん。鳥のさえずりとともに起き、黒田さんの畑へ向かう。この地方の特産品であるボタゴショウを摘み取るためだ。柔らかい土の上を歩くのは何年ぶりだろう。黒田さんに促され、ピーマンにしか見えないボタゴショウを摘む。収穫したボタゴショウを持って、公民館調理室へ移動。そこで蕎麦打ちと佃煮作りを学んだ。
翌日には野尻湖畔のアウトドア・スクールが主催するキノコ狩りに参加した。これが実にタフな行軍だった。藪をかき分けながら山へ入り、木の蔓をつかみながら崖を下り、浅瀬をバシャバシャと横切って、キノコを探す。あまりにつらくてキノコ嫌いになるという思いは、収穫したキノコ鍋の旨さで消えてしまった。
体験で感じたのは、黒田さんもキノコ狩りのツアー・ガイドさんもみな知り合いだということ。人の温かさが厳しい冬を乗り越えるエネルギーなのかもしれない。
わずか5日間の滞在だったけれど、自然の美しさに心打たれ、食べ物の大切さを実感し、人の温かさに触れた。そして"都会の暮らし"を見つめなおす5日間だった。今回の体験だけで、移住は決められないけれど長野県信濃町が好きになった。移住とは、その土地に恋するところがスタートかもしれない。
文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=長野県信濃町役場/荒井寿彦(ENGINE編集部)
(ENGINE2020年12月号)
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