今一番ホットなミレニアル世代のポップアイコンと言えば、ロンドン生まれのデュア・リパ。2019年度のグラミー賞で「最優秀新人賞」と「最優秀ダンス・レコーディング賞」を獲得した彼女が今年3月に発表した2作目『フューチャー・ノスタルジア』は80年代を軸とするダンスサウンドに振り切った作りで、コロナ禍の閉塞感を吹き飛ばすような輝きを有していた。95年生まれの彼女が親の影響で子供の頃から親しんでいた70~80年代のディスコやファンクが現代の電子系サウンドと上手く混ぜられ、タイトル通り、まさに近未来感と懐かしさの絶妙なバランスが鮮やかな痛快作となったのだ。よってその作品は全英始め8ヵ国のチャートで見事1位に輝いたわけだが、「だったら私も黙っていられない」ということなのか、現在はイギリスに住むダンスポップの熟練者カイリー・ミノーグがここに最高の新作を生み出した。「大人にだって純粋なポップの楽しみが必要」と彼女が言うその新作のタイトルは、ズバリ『ディスコ』。1987年に19歳で歌手デビューして以来、長きに亘ってダンスポップを更新し続けてきたカイリーの面目躍如たる作品である。
バラード表現にも実は定評のあるカイリーだが、今作は1曲目から12曲目まで全てがダンス曲。デュア・リパ作品にはファンクやロックの要素が入った曲もあったが、こちらはもっと徹底していて全編がディスコ・テイストだ。「フゥッフゥッ」といったかけ声や、曲間にパンパンと音を鳴らすハンドクラップの入った曲もあり、「70年代ディスコが大好きだった」と言う彼女の思いと拘りが散りばめられている。
とはいえ70年代ディスコそのままのはずもなく、長年カイリーと仕事をしているプロデューサーのビフ・スタンダードらがダフト・パンク以降とも言えるエレクトロサウンドを絶妙に融合。そんな“フューチャー・ノスタルジア感”を有するアプローチは、デュア・リパ以前にマドンナが2000年代にやっていたことでもあるのだが、カイリーは“大人のディスコ感覚”をより前面に押し出し、歌唱にしてもマドンナやデュア・リパのようにパワフルに歌うという感じではない。カイリーは決して力まない。それ故にセクシーで、相変わらず可愛らしさも歌声から感じられるのだ。2曲目「ミス・ア・シング」の初めに「ダンス」と囁くその声からしてセクシーだが、かといってそこに熟女の色仕掛け感などなく、彼女の歌表現はなんというか自然体なのである。それでいて仕上がりは華やかで、祝祭感もある。カイリーだからこそ生み出すことのできた傑作だ。
文=内本順一(音楽ライター)
(ENGINE2020年12月号)
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