オークションの楽しみを一度知ると、ハマってしまう人も少なくない。とはいえ高級時計ともなると、敷居が高いと感じられるのではないか。しかし心配無用。その分野に精通したスペシャリストが世界で展開するオークションなら、購入のみならず、出品も安心だ。
俳優ポール・ニューマンといえばデイトナ。このモデルは、妻で女優のジョアン・ウッドワードが結婚25周年を祝って1983年に購入し、彼に贈ったもの。ブラックダイアルに赤い文字でDAYTONAと記されたこの時計を彼はその後25年愛用し、2008年に娘のクレアに譲ったが、同年に死去した。本人が所有したデイトナは、今まで驚異的な高額で落札されたが、これもまた2020年12月12日のニューヨークのオークションでは予想を越える5億円以上の値がついた。
時計も美術品や宝飾品などと同様に、価値が長続きする特別な品物だ。2世紀もの経た懐中時計や戦前戦後の腕時計が今なお価値を失わず、オークションでの出品と落札を通じて人から人へと受け継がれているのがなによりの証拠だ。
時計店はもとより博物館でも目にすることが困難な多くの貴重品に公開の場で出合えるのもオークションならではだ。時計愛好家なら、垂涎のモデルが贅沢に並ぶカタログやwebの出品目録に目を通すだけで思わず心が弾む。
時計に精通するオークショニアとしてとりわけ名高いフィリップスは、1796年に設立された老舗である。ヨーロッパ各地とアメリカ、日本では東京にオフィスを構え、ジュネーブ、ニューヨーク、香港の3都市合わせて通常年5回の時計オークションを開催。さらに事前のプレビューや出品する時計の査定も行うスペシャリストだ。
プロのオークショニアが扱う時計は、価値の判定が厳格に行われ、詳細な仕様はもちろん、製造年からの今までの履歴が徹底的に調べられ、現状の品質も考慮して総合的にエスティメートと呼ばれる予想落札価格と最低落札価格を設定する。膨大な事例をこなしてきたオークショニアの鑑識眼がはじき出した価格は信頼性が極めて高いのだ。
著名人の所有した時計や、歴史的に極めて重要な時計となると特別な付加価値が生じるが、一般的にこの予想落札価格と最低落札価格は、購入を検討する場合だけでなく、自分が所有する時計の価値を知りたいときや、出品する際の目安としても役立つ。
「RACING PULSE」と題された2020年12月12日にニューヨークで開催されたオークションには、ポール・ニューマンと同様に、俳優でカーレーサー、そして伝説のクロノグラフを残したスティーブ・マックイーンの「モナコ」も出品された。これは、映画『栄光のル・マン』(1971年公開)の撮影中に着用し、メカニックに贈ったとされるもの。彼の「ホイヤー・モナコ」はまた、1969年に誕生した世界初の自動巻きクロノグラフのひとつとして歴史的にも貴重。
オークションの利用には、基本的に2つの側面がある。手に入れたい品に入札して落札する、つまり「買う」ということと、それとは反対に、出品して「売る」という側面だ。その両方を仲介するのがオークショニアである。
「競売」という性質上、エスティメートを上回る高額で落札されるケースが非常に多いが、それは品に価値があればこそ。買い手は価値に値を付けるのだ。売り手からすると、出品した物が価値を知る者に渡るということになる。
ところで、基本的にこのような双方向の流れで成立するのがオークションなのだから、なにより市場には出品物が必要だ。フィリップスには、世界中から大量の時計の出品があるが、近年は日本からも増えてきたという。実際、日本人は世界的にみても時計好きで、収集家も少なくない。
また日本人の美徳だろうが、日常的に時計を大切に扱う人が多い。ボックスや付属品一式まで新品同様の状態で保存する人もいる。そうした日本の愛好家が所有する時計は、長い年月を経てもコンディションが良く、オークションへの出品を検討する際の査定や、実際の入札においても高値が付く可能性が高いという。
月面着陸50周年を祝して2019年に復刻されたことでも話題となった「スピードマスター」のそのオリジナルが、2020年11月29日の香港でのオークションに登場したこのモデル。偉業を称えて当時1014本が18Kイエローゴールドで限定製作された貴重な「スピードマスター」は、大統領と副大統領、および宇宙飛行士や関係者などに贈呈されたほか、残りが市販された。これは市販品のひとつで、偉大な歴史も含め、希少価値は絶大だ。
種類や製造年代を問わず、オークションで常に人気の的なのがロレックス。何らかの特色があるものは価値もアップ。2020年7月10日の香港でのオークションに出品されたこのモデルは、ロレックスとジュエラーのティファニーとのダブルネームで、ごくシンプルな「エアキング」にグンと希少価値が加わる。エスティメートではおよそ40万円台〜80万円台だが落札額は200万円越え。価格は購入のみならず出品の際の参考にもなる。
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オークションへの出品の大まかな流れは下を参考にしてほしい。まずフィリップスのスペシャリストが査定し、出品に適している場合、その価値を評価して予想落札価格と最低落札価格を決める。査定は、希少価値の高いアンティークや特殊なレアモデルに限らず、最近の現行品でも可能だ。ただしコンディションが良いことが前提だ。実際オークションにはここ数年リリースされたまだ記憶に新しいモデルもけっこう出ている。
次に時計を預け、契約を締結したら、あとはオークションの開催を待つばかり。自分の時計が美しい写真と詳細なデータとともに豪華なカタログに掲載されるのも楽しみだ。思い出の時計を手放した後も、カタログに残せるのはオークションならでは。フィリップスによれば、そうした記録を残すために出品する人さえいるという。
首尾よく高値で落札されれば喜ばしいに違いないが、オークションは、単なる物の売買を行う場なのではなく、ある意味価値の譲渡を通じて人と人との夢の交換を取り持つ場なのかもしれない。まずはトライしてみるのもいいだろう。
香港でのオークションでは、ロレックスとならんでパテック フィリップのヴィンテージウォッチはもとより、比較的最近のモデルまでが数多く出品され、時計好きには見逃せない。これはデザインもメカニズムもまさにタイムレスなパテック フィリップのパーペチュアルカレンダーだが、1955年に2種類のダイアル・デザインで作られた35本に含まれる1点で、複雑時計として当時珍しい防水ケースという貴重品だ。
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《査定》出品を検討している時計の詳細を、電話やEメールにてフィリップスに連絡する。その内容をフィリップスのスペシャリストが、オークション出品に適しているかどうかを検討する。最終的な結果は実際に時計を確認してからの判断となる。
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《予想落札価格・最低落札価格・出品条件の提示》スペシャリストがオークション出品に適していると判断した場合、予想落札価格と最低落札価格、また出品条件を提示。その条件を確認して出品を検討する。
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《出品決定・時計預かり》出品決定後、指定の期日までに時計がフィリップスに到着するように手配する。時計の梱包料、送料、保険料などの諸経費は出品者の負担となる。
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《契約書締結》時計到着の確認が取れるとフィリップスから契約書が発送される。契約書には予想落札価格、最低落札価格、出品条件等が記載されており、内容を確認して問題なければ署名して返送する。※出品手数料および諸経費(保険料、カタログ掲載料等)が派生する。※はじめて出品される場合は身分証明書、または会社登記簿謄本の登録が必要。
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《オークション開催》自身が出品する時計がカタログに掲載され、オークションに出品される。
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《支払い》オークションから約45日以降に支払われる。支払われる金額は、落札者からの入金確認後、落札価格(ハンマープライス)から出品手数料、諸経費を差し引いた金額となる。
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取材・文=菅原 茂 写真=PHILLIPS
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