2021年3月14日にLAで開催される第63回グラミー賞授賞式。ビヨンセが最多の9部門、次いでテイラー・スウィフトとデュア・リパが6部門にノミネートされるなど、前回に続いて「女性アーティスト強し」の感が強く、なかでも「最優秀ロックパフォーマンス賞」は候補の6組全てが女性。主要部門を見ても最優秀レコード賞や新人賞の大半が女性だ。ただし要の「最優秀アルバム賞」はそうではなく、男女比は半々。ノミネートされているのはジェネイ・アイコ、ブラック・ピューマズ、コールドプレイ、ジェイコブ・コリアー、ハイム、デュア・リパ、ポスト・マローン、テイラー・スウィフトの8作品で、ジャンルも多様である。本命は全米1位に輝いて批評家からも絶賛されたテイラー・スウィフトの『フォークロア』だが、ここには日本での知名度が多少低くとも、実験精神に溢れ、新しい感触の音楽をやっているアーティストの作品が入っていることにも注目したい。
ジェネイ・アイコはケンドリック・ラマーら大物のフィーチャリングで注目されたR&B歌手。官能的だったり内省的だったりの歌詞を柔らかく歌うひとで、パワフルに歌い上げるビヨンセとは真逆のスタイルだ。対象作『チロンボ』はハワイで録音され、自然のなかで聴いても癒されそうな聴き心地のいい作品になっている。またジェイコブ・コリアーは、クインシー・ジョーンズの目にとまって2016年にデビューした26歳のマルチミュージシャン。アカペラと楽器の多重演奏で魅了し、対象作『ジェシーVol.3』も作曲・編曲・演奏までの全てを自宅で行なった。色彩豊かで、グルーヴに満ちた作品だ。
それからもう一組。日本では無名のユニットが選ばれている。2019年にデビューしたソウル・デュオのブラック・ピューマズだ。実は彼ら、前回のグラミーでも最優秀新人賞にノミネートされていたのだが、今回は「最優秀アルバム」「最優秀レコード」の超主要2部門を含む3部門に選ばれていたので驚いてしまった。よほど選考者たちに気に入られているのだろう。そんな彼らの音楽性はソウルとブルーズを基調とし、哀愁溢れるメロディを軸にしたもの。古風と言えば古風だが、今回対象となったデビュー作のデラックス・エディションでは、トレイシー・チャップマンの名曲「ファスト・カー」をよりフォーキーにカヴァーしたり、ビートルズ「エリナー・リグビー」をヘヴィなサイケロックにして歌うなど、一筋縄じゃいかないところを示している。エリック・バートンという歌手の歌もダークで渋めだが、聴くほどに沁みてくるものだ。
果たして賞は誰の手に?
文=内本順一(音楽ライター)
(ENGINE2021年2・3月合併号)
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