ルノー・メガーヌR.S.とFF最速の座を争う日本FFスポーツの雄、シビック・タイプRが地道な改良を重ねることでさらなる速さを手に入れた。同時に発表された黄色が鮮やかな限定車をホンダのお膝元で存分に楽しんだ。
個人的には歴代タイプRの中で現行型のデキが一番だと思っている。内燃機関が大好きなペトロール・ヘッドを持つ人は、熟練の職人が手で磨いた吸排気ポートを持ち最高許容回転数が9000rpmという超高回転型エンジンの初代こそ真のタイプRだと言うかもしれない。しかし、ルノー・メガーヌRSが先鞭をつけたニュルブルクリンク北コースでのFF(前輪駆動)最速バトルに参戦するようになってから、とくにシャシー性能でひと皮、いや、ふた皮くらい剥けたと思う。そんな現行型タイプRがマイナーチェンジして、さらに進化を遂げた。
改良ポイントは速く走るためか、もしくは速く走るためにより正確な操作ができることを目的にしたものばかり。320psの2.0リッター直4ターボはそのままだが、サスペンション取り付け部のボールジョイントやブッシュの改良、可変ダンパーの制御見直し、シフト・ノブ形状刷新など、小さな変更を地道に積み重ね、速さに磨きを掛けた。
外観で一番大きな変更はフロント・グリルだが、それすらもラジエーターの冷却性能を高めるためにグリル開口部の面積を広げるのが目的なのだ。
実は新型にはもうひとつ大きな話題がある。それが“リミテッド・エディション”と呼ばれる限定車の設定。BBS製の鍛造ホイールなどによる23kgの軽量化とミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2という専用タイヤの装着、可変ダンパーの設定変更などが改良の主な柱となっている。おそらく現在メガーヌに奪われたニュル最速の座を取り戻すためのモデルであることは想像に難くない。コロナ禍の影響でいまのところ挑戦できていないらしいが、「行けなくて本当に残念です」という関係者の言葉がこのクルマの完成度の高さを物語っているだろう。ちなみに鈴鹿サーキットではメガーヌを破り鈴鹿FF最速の称号を手にしている。今回試乗したのはまさにこのニュル・アタッカーになるはずのクルマだ。
公道では何度か試乗したことはあったが、現行型タイプRでサーキットを走るのは今回が初めて。なので、前のモデルからの進化度合いはわからないが、速さと懐の深さに感心するばかり。加速、旋回、制動の絶対的な性能の高さもさることながら、いずれもドライバーの操作に対してクルマは思った通りの反応をする。しかも、操作と反応の間に“間”は存在しない。クルマの変化は連続的で、反応も過敏ではないのでアンダー・ステアやオーバー・ステアが出てもコントロールしやすい。これだけの速さを持ちながら脚もしなやかで、縁石に乗り上げても挙動を乱すことなく行きたい方向に突き進んでいく。またローターが1→2ピースに変更されたブレーキも特筆すべき性能のひとつ。20周ほど走ったあとでも、何の不安を抱くことなく200km/hオーバーから目一杯ブレーキ・ペダルを踏みつけることができた。全6周のアタックでクルマに不満や不安を抱くことは一度もなかった。
ただ、最後に残念なお知らせがある。それは、この限定車だけでなく、生産拠点の英国工場を2021年に閉鎖する影響で、もはや通常モデルすら完売状態になってしまっていること。それが新型タイプRで唯一かつ最大の難点かもしれない。
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=宮門秀行
■ホンダ・シビック・タイプRリミテッド・エディション
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4560×1875×1435mm
ホイールベース 2700mm
トレッド 前/後 1600/1595mm
車両重量 1370kg
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ
総排気量 1995cc
ボア×ストローク 86.0×85.9mm
エンジン最高出力 320ps/6500rpm
エンジン最大トルク 400Nm/2500-4500rpm
変速機 6段MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 245/30ZR20 90Y
車両価格(税込) 550万円(200台限定。ただし完売)
(ENGINE2021年2・3月合併号)
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