フランスでは“ルドスパス”と呼ばれる背高大容量の乗用&商用ワゴン。日本ではその唯一の存在としてカングーが人気を博してきたが、ついに強敵が現れた。シトロエン・ベルランゴ。果たしてカングーが築いた牙城を崩すことができるか?
ベルランゴはずばり、欧州ではルノー・カングーとバチバチに直接競合しているクルマだ。これらはともに商用バンとしての顔をもつが、同時に充実した装備と快適性をもつ乗用モデルも用意される。しかも、それは商用車を無理やり飾り立てて乗用車にしているわけではなく、初期設計段階から、商用と乗用の両方を想定したクルマづくりとなっている。こうした商用車と二刀流の大容量ワゴンを、フランスではとくに「ルドスパス=LUDOSPACE」と呼ぶ。ルドスパスとはLUDOS(=遊び)とESPACE(=空間)という2つのフランス単語による造語だ。
日本で最も有名なルドスパスは、いうまでもなく、2世代20年近くにわたって販売されてきたカングーだ。しかし、シトロエンによると、元祖ルドスパスはベルランゴだという。調べると、なるほど初代ベルランゴはカングーの初代より1年以上も早い1996年夏に登場していた。
そんなベルランゴは2020年夏の正式導入に先立って、2019年10月にデビューエディションとして数百台レベル(正確な台数は未公表)の限定販売を実施したが、それがわずか5時間半で完売して大きな話題となった。カングー王国ともいえる日本なのに……というか、カングーがこれだけ普及しているからこそ「カングーではないカングーのようなクルマ」の需要もあるということなのだろうか。
というわけで、カタログ・モデルに昇格したベルランゴは、上級の「シャイン」と手頃な「フィール」という2グレードが基本となる。今回の試乗車となったフィールはシャインより36万円安価だが、1.5リッターディーゼル+8段ATのパワートレインやタイヤ・サイズなどの走りの基本性能にかかわる部分にグレード差はない。フィールでは、ガラス・ルーフやアルミ・ホイール、パドル・シフト、スマホのワイヤレス充電などのほか、駐車ソナーやブラインド・スポット・モニターが省かれる。ただし、全車速対応のアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)や車線逸脱防止アシストは残されるので、レジャー・カーとして休日の長距離移動でも使い倒すような使いかたもフィールで不足はないだろう。
現行カングーはいまだ2013年に本国発売された2代目なので、ベルランゴのハードウェアはカングーより完全に1世代……いや一般的な乗用車の感覚でいえば2世代は新しい。実際、緊急自動ブレーキやACCなどカングーでは皆無の先進運転支援システムも、ベルランゴでは普通に考えられるものはほぼすべて揃う。また、特徴的なダイヤル式ATセレクターも最新のシフト・バイ・ワイヤの技術があればこそだ。その他にも宿敵カングーを細部まで研究しつくした感がアリアリで、後席や荷室の広さだけでなく、シートの可倒機構をはじめとした各部の親切さなどにおいても、ほとんど全面的にベルランゴに軍配が上がる。
しかし、運転感覚はともに個性的で、2台を乗り較べて迷う人はあまりいないと思う。どっちが良い悪いではなく、明らかにちがうからだ。
ベルランゴより約150kgも軽いカングーは、その体格からは想像しにくい程路面にへばりつくコーナリング・マシーンである。対して、ベルランゴは、良くも悪くも背高クルマらしいおっとりした動きに終始する。ロールは小さくないが、過酷になるほど身のこなしにコシが出るタイプだ。真骨頂は高速クルージングで、いかにもシトロエンらしくボディをフワリと上下させながら凹凸を吸収する。エンジンのおいしい領域をうまく引き出す8段ATの効果に加えて、遮音対策も入念なのか、とくに高速ではディーゼルとは思えないほど静かなのはベルランゴの美点だ。
ベルランゴに乗ると、カングーのコーナリング性能を思い出してあらためて驚いたりもするが、サーキットのような走りはこの種のクルマの本分ではない。それよりも、昨今のシトロエンに共通する遊びグルマらしい楽し気なデザイン、細かな配慮が行き届いた使い勝手、そしてディーゼルならではの経済性などの総合商品力を考えると、ベルランゴはこのカングー王国にちょっとした異変を巻き起こしそうな予感はある。
文=佐野弘宗 写真=篠原晃一
■シトロエン・ベルランゴ・フィール
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4405 × 1850 × 1850mm
ホイールベース 2585mm
トレッド(前/後) 1555/1570mm
車両重量(前後重量配分) 1610kg(前960kg:後650kg)
エンジン形式 直列4 気筒DOHC16V 直噴ディーゼル・ターボ
総排気量 1498cc
ボア×ストローク 75.0 × 84.8mm
エンジン最高出力 130ps/3750rpm
エンジン最大トルク 300Nm/1750rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式(前/後) ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ(前後) 205/60R16 92H
車両価格(税込) 312万円
(ENGINE2021年2・3月合併号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
2024.10.19
LIFESTYLE
曲がっているとなぜ楽しい? 中も外も曲線だらけの三日月ハウスの謎 …
2024.10.17
CARS
【速報!】限定799台、5億7600万円のスペシャル・フェラーリ登…
2024.10.19
LIFESTYLE
フランス版ミシュランの三ツ星シェフ、小林圭 その世界観が詰まった銀…
PR | 2024.10.11
CARS
いよいよ生産終了 右ハンドルで5MTの希少なアバルトF595にモー…
PR | 2024.09.26
WATCHES
ベル&ロスのトップモデルの新作は、精悍! レーシングカーのインパネ…
PR | 2024.09.30
CARS
ディスカバリー誕生35周年記念「私のディスカバリー ストーリー」募…
advertisement
2024.10.15
「買ったら長く持ちたい」と言う国沢光宏さんの言葉が胸に沁みた 総合18位はこのホットハッチ! 自動車評論家44人が選んだ「2024年身銭買いしたいクルマのランキング!」
2024.10.20
ゴルフGTIはボディで曲がる、メガーヌRSはリア・サスペンションで曲がる、ではシビック・タイプRは何で曲がるのか? ホットハッチ頂上決戦 山野哲也が判定を下す!
2024.10.17
公道ではこれにまさるフェラーリはない by 清水草一 総合16位はこのスポーツカー! 自動車評論家44人が選んだ「2024年 身銭買いしたいクルマのランキング!」
2024.10.18
冒険心があるなら誰でも一度は乗ってみたい憧れのクルマ 総合15位はこのSUV! 自動車評論家44人が選んだ「2024年 身銭買いしたいクルマのランキング!」
2024.10.17
【速報!】限定799台、5億7600万円のスペシャル・フェラーリ登場! その名は「F80」 イタリアの本拠地マラネロで開かれた内覧会からエンジン編集部のムラカミが速報する