昨年のベートーヴェン生誕250年にあわせて企画された話題の新譜が続々とリリースされている。現代最高のアーティストたちによる3作品を紹介しよう。
2020年はベートーヴェンの生誕250年のメモリアル・イヤーで、世界中のアーティストがコンサートでこの偉大な作曲家の作品を取り上げ、クラシック界は活況を呈すはずだった。しかし、コロナ禍でほとんどの演奏会が中止となり、みな失望の色を隠せなかった。そのなかで録音やアルバム制作だけは行われ、いまや真の巨匠の道を歩み続けている4人のベートーヴェンのアルバムがリリースされた。
内田光子は、サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とは旧知の仲。彼らは1984年以来何度も共演を重ね、内田は2008/2009年のシーズンに同オーケストラのアーティスト・イン・レジデンスを務め、ベルリン・フィルのヨーロッパツアーにもソリストとして同行している。そんな彼らが2010年には4日間に分けてベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲をライヴ収録した。第1番から第5番まで、いずれもソリストとオーケストラの呼吸はピッタリ。霊感に富んだ演奏は一音たりとも耳が離せない集中力と緊迫感に満ちたもので、ライヴ特有の臨場感に満ちている。ただし、彼らの演奏はけっして堅苦しいものでもベートーヴェンを神のように崇めるものでもなく、ひたすら美しく人間味あふれる演奏に徹している。
五嶋みどりもメモリアル・イヤーに印象深いベートーヴェンを生み出した。これはコロナ禍で2020年2月末のルツェルン音楽祭のコンサートが中止され、録音のみが許可されたなかでの貴重な収録。五嶋みどりの特質である繊細さ、秘めた情熱、作品の内奥に切り込んでいく姿勢、ひとつひとつの音に魂を込めるような表現などが全編を覆い、耳を引き付けられる。オーケストラも結束してソリストに寄り添い、一途な姿勢を感じさせる。
最後は、ダニエル・バレンボイムの新譜だ。ふだんは指揮活動で多忙を極めるバレンボイムは、コロナ禍で3カ月間ピアノに集中することができ、5度目のベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音を完成させた。子どものころから神童として知られ、類まれなるタフな音楽家としても有名なバレンボイムは、この録音も集中力がハンパではない。彼はインタビューで「私はどんな作品も、どんな場所でも演奏を目いっぱい楽しんでいます。演奏家が辛い顔をしたり音楽と格闘していたら、聴いてくれる人は楽しめないでしょ」と語る。
このベートーヴェンも、実に雄弁で情熱的で前向きな姿勢を崩さない。とりわけ後期のソナタは大変な難曲として知られるが、バレンボイムはそれらの高い頂を楽々と登頂し、頂上から美しい景色を眺めているような爽快感と達成感を見せる。努力の痕跡はいっさい見せない、そんな潔さを感じさせる演奏だ。
文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
(ENGINE2021年4月号)
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