オリジナルコンテンツで大人気の動画配信サービス、NETFLIX(ネットフリックス)。今年は史実に基づく2本の映画が、全米の賞レースでも注目の的となっている。
昨年、全世界の会員数が2億人を突破したネットフリックス。いわゆる巣ごもり需要も手伝い、日本での会員数も2019年の300万人から一気に500万人超えとなった。ネットフリックスの最大の強みは、他では観られないオリジナル作品だ。それは主力のシリーズものだけでなく、賞レースを賑わすような、良質の映画にも当てはまる。
その中で今、話題なのがデヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』だ。オーソン・ウェルズが1941年に発表した『市民ケーン』の誕生を描いた物語で、“マンク”とは、この名画の脚本を手掛けたハーマン・J・マンキウィッツを指す。
今でこそ映画史上最高の傑作と讃えられる『市民ケーン』だが、公開当初は主人公のモデルにされたメディア王、ウィリアム・ランドルフ・ハーストが上映妨害工作を行うなど、様々な物議を醸した(アカデミー賞でも9部門の候補になりながら脚本賞しかとれなかった)。
ちなみに『市民ケーン』の脚本はマンキウィッツとウェルズの共作とされているが、真の功績者がどちらだったのかは今も論争が続いている。『Mank/マンク』ではこの論争にひとつの答えを与えつつ、マンキウィッツと交流のあったハーストや、MGMのボスだったルイス・B・メイヤーなど多彩な人物に焦点を当てることで、当時のアメリカ社会を浮き彫りにしていく。
また作品のスタイルも野心的で、画面全体にピントをあわせたパンフォーカスや時系列を前後させた構成など、随所で『市民ケーン』を模している。本作をより深く楽しむためにも、未見の方にはまず『市民ケーン』を観ることをお勧めしたい。
もう一本の注目作が、同じく史実に基づいた『シカゴ7裁判』だ。1968年の民主党全国大会の会場近くで、ベトナム戦争に反対する人々が警察と衝突。暴動を煽った廉で逮捕、起訴された7人(最初は8人)の裁判の行方を描いた作品である。
現代のBLACK LIVES MATTER運動や、ワシントンDCでの議事堂乱入事件をも連想させるような社会派ドラマだが、これが娯楽作品としても最高に面白い。そもそも起訴された男たちのほとんどが互いに面識がなく、学生やヒッピーの風貌をした活動家もいれば、普通のお父さんのような人もいる。そんな彼らが自らの信念で、有罪ありきの裁判に戦いを挑んでいく姿が、すこぶる痛快で感動的なのだ。
大手映画スタジオが二の足を踏むような硬派な企画にも挑戦し、それを娯楽性に飛んだ、優れたメッセージのある作品に仕上げていく。飛ぶ鳥を落とす勢いのネットフリックスならではの底力を感じる作品だ。
文=永野正雄(ENGINE編集部)
(ENGINE2021年4月号)
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