多くのスターに愛され、そして彼らとともに数々の銀幕に登場した名車、ジャガーEタイプ。その生誕60周年を記念し、後継モデルのFタイプに当時を偲ばせる特別な仕立ての限定車が登場した。
「いいだろ、240キロは出る。逃走に便利だ」
そう嘯くサイモンに促され、鮮やかなペイル・プリムローズに彩られたジャガーEタイプ・シリーズ1ロードスターのドライバーズ・シートに座ったニコルは、戸惑う仕草をみせたかと思うと、助手席のサイモンを振り落とさんばかりの荒々しい走りっぷりで真夜中のパリを駆け抜けた。
これは1966年公開の映画、『おしゃれ泥棒(原題:How to Steal a Million)』の冒頭のワンシーンだ。
『ローマの休日』、『噂の二人』に続く、ウィリアム・ワイラー監督のオードリー・ヘプバーン主演作品となる本作は、贋作画家の娘ニコルと、美術品鑑定のプロで私立探偵のサイモンが、ひょんなきっかけで知り合い、美術館から贋作のビーナス像を盗み出そうと奮闘するロマンティック・コメディである。
『アラビアのロレンス』で有名なピーター・オトゥールが演じるキザでスマートな優男、サイモンにEタイプはお似合いだ。しかしそれ以上に印象に残るのは、様々なシーンでEタイプの助手席で微笑むニコル……いや、ヘプバーンの姿だろう。
『麗しのサブリナ』から始まって以来、その生涯を通じて交わされたジバンシィとのコラボレーションは、この作品でも存分に発揮され、シーン毎に違うファッションに身を包んで現れるヘプバーンを見ているだけでも十分に楽しめる。
中でも格子柄のスカートスーツを着たヘプバーンが運転席からシートの上を歩いて助手席に乗りこむ、タイトなコクピットを逆手に取ったシーンは、Eタイプ・ファンなら思わずニヤリとすることだろう。
当時のポスターやPR写真にも、ボディ・カラーにコーディネートしたかのようなレモン・イエローのスカートスーツを着てリア・フェンダーに腰掛けるヘプバーンの姿が使われているように、Eタイプはカラフルでファッショナブルなこの映画を象徴するアイコンの1つになっている。
ちなみにEタイプのワールド・プレミアとなった1961年のジュネーブ・ショーの会場で、『新・七つの大罪』や『愛すべき女・女たち』などの映画監督でブリジッド・バルドーの夫でもあったジャック・シャリエがイタリアのチネチッタ撮影所からわざわざ駆けつけて1号車を予約したというエピソードは有名だ。
そしてシャリエに続くようにそのオーダー・リストには、フランク・シナトラ、ディーン・マーティン、スティーブ・マックイーン、日本でも三船敏郎やフランク永井といった錚々たる面々が名を連ねることとなった。そう、Eタイプは様々なスターに愛されたクルマであったとともに、その存在そのものがスターだったのである!
そんなEタイプの誕生から記念すべき60年を迎えた今、ジャガーのラインナップにFタイプが並んでいるのは、21世紀のスポーツカー好きにとって幸せなことだ。
その名が示す通り、Fタイプ は2012年の正式発表の前からEタイプの真の後継車であることを謳ってきた。
実際にドライブしてみても、所作は実にエレガントなのに、お尻でリア・タイヤの存在感を感じながら腕っぷしでコントロールするFRらしいワイルドさ、適度にタイトでよりクルマとの一体感を感じさせるコックピット、そしてV6、V8ともにレスポンスが鋭くパワフルで、魂に訴えかけてくるような手応えのエンジンなど、ジャガーFRスポーツのDNAがしっかりと受け継がれているのを感じる。
もちろん、コンバーチブルとクーペで展開されるロングノーズ&ショートデッキのボディ・スタイルが、Eタイプのエッセンスをさらに昇華させたものであるのは、よく知られた話だが、今回改めて『おしゃれ泥棒』のPR写真を見ていて気が付いたのは、ヘプバーンが腰掛けるEタイプのリア・フェンダーのラインが、そのままFタイプにもトレースされていることだった。
こういう「遊びゴコロ」をさりげなく取り入れられるのは、長い歴史をもつメーカーの特権であるとともに、Eタイプが未だ色褪せないエヴァーグリーンな魅力をもっている証であると言えるだろう。
世界限定60台で用意される60周年記念モデル『Fタイプ・ヘリテージ 60 エディション』のボディ・カラーがシャーウッド・グリーンに塗られているところにも、ジャガーの過去に対する敬意が感じられる。
なぜならFタイプの純正色に用意されていないシャーウッド・グリーンは、1961年から1967年の9月まで……つまりEタイプ・シリーズ1にのみ採用された、いにしえの純正色であるからだ。
また標準仕様には設定のないキャラウェイとエボニー・ウィンザー・レザー・インテリアを採用しているのも、シャーウッド・グリーンのEタイプに設定されていたタン・レザーとの組み合わせを連想させる。
575psを発生する5ℓV8 DOHCスーパーチャージャーを搭載したAWDのFタイプR P575 クーペをベースに、上記のほかに記念ロゴがエンボス加工で入ったヘッドレスト、“SV BESPOKE ONE OF SIXTY” と記されたサイド・シルのプレート、アルミニウム・コンソール・フィニッシャーなどを備え、本国のスペシャル・ビークル・オペレーションズ部門のテクニカルセンターで、SVビスポーク・チームによって1台、1台、手作りで仕立てあげられるFタイプ・ヘリテージ60エディション』。
日本に輸入されるのはわずか6台ではあるが、長い歴史と最新のテクノロジーを誇るジャガー・スポーツの集大成であるとともに、“E” と “F” の間に横たわる60年の時を埋めるタイムマシンともいえるかもしれない。
→F-TYPE HERITAGE 60 EDITION 詳細はコチラ
さらに日本市場にはFタイプにとって最後のV6エンジン搭載車となる『Fタイプ・ヘリテージ V6 エディション』も30台限定で用意されている。
380psの3ℓV6 DOHCスーパーチャージャーを搭載するFタイプRダイナミックP380 RWDをベースとし、ユーロン・ホワイト、サントリーニ・ブラック、インダス・シルバー、フィレンツェ・レッド、ブリティッシュ・レーシング・グリーンと5種類のボディ・カラーをラインナップ。
この2種類の60周年記念モデルのオーディオ・リストに似合うのは、ジョン・ウィリアムズ作曲の『How to Steal a Million』だろう。そして助手席にジバンシィのスーツを着た、素敵なパートナーを誘い出せれば最高だ!
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文=藤原よしお 写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン/Photofes/アフロ
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