2021年版ENGINE大試乗会。人気沸騰中のプジョーのコンパクトSUV、SUV2008に小川フミオ、佐野弘宗、武田公実、金子浩久、島崎七生人の5人のモータージャーナリストが試乗した。
試乗車は2020年にデビューした新型で2代目となるプジョーのコンパクトSUVだが、なんと日本に導入された直後のタイミングで世界的に改名され、SUV2008となった。最新のCMPプラットフォームをはじめ、中身は2カ月早く登場した新型208と共通。ただし、1270kgという208より100kg以上思い車重を考慮してか、1.2リッターの直3ターボは208より30ps大きい130psへと出力アップが図られている。8段ATの前輪駆動モデルのみで、208やDS3クロスバックと同様、ガソリン仕様の他にEVも選べる。サイズは全長、全幅、全高が4305mm、1770mm、1550mmで、ホイールベースは2610mm。価格は338万円となっている。激戦市場のコンパクトSUVの注目モデルに試乗した5人のジャーナリストの意見やいかに。
プジョー車はおもしろい。なぜって、角張ってトンガって見えるのに、中身はやわらかいからだ。乗り心地のよさと、力があるエンジンの組合せは、魅力的である。1.2リッターの排気量ながら、実用トルクもしっかりあって、加速性能にも不足しない3気筒エンジンは、今回の大試乗会で乗ったシトロエンC3と共用するユニットのはずであるものの、プジョーのほうがトルク感があった。いわゆる“あたり”がついていたせいだろうか。シートのホールド性もいいし、からだのサポートも快適で、しっかり落ち着く。ロード・ノイズ、風切り音、エンジン・ノイズなどを含めて音の“まるめ方”がうまいせいか、けっこう静粛性の高い室内にいると、落ち着く。交通の流れのなかでストレスを感じることもなく、この快適性こそ、SUV2008ならではの“やわらかさ”だと感じられた。インテリアの奇のてらいかただけは心がざわざわする。とりわけ速度計がステアリング・ホイールに隠れて読めない“デザイン”はトンガりすぎ。ケガしそうなほどに。
最新のプジョーといえば左右幅350mm強、上下高わずか320mmという超小径楕円ステアリング・ホイールを核とするi-コクピットがお約束。超小径といってもギア・レシオで相殺されているので特別クイックというわけではない。ただ、ステアリング・ホイールそのものが圧倒的に小さく軽いので、気を抜くと急ハンドルになって運転が下品になりがち……だったのも今は昔。
新型2008はその超小径ステアリングを無意識にあつかっても姿勢を崩すこともなく、操舵にドンピシャにシンクロする。それこそ手首の返しだけで、背の高いSUVをピタリかつヒラリと、そして正確かつ自在にあやつれるのは素直に快感だ。思い返してみれば、i-コクピットは先代の2008や208が初採用だったので、この新型2008前後で一巡して第二世代に入ったことになる。こうしてひとつの完成を見たi-コクピットがあればこそ、プラットフォームがシトロエンやDS、オペル(将来的にはフィアットやジープも?)と共通でも、プジョーの乗り味は明らかにプジョーである。
「プジョーの乗り味は、昔から“ネコ脚”と言ってだな……」。そんなつまらないウンチクを、滔々と語りたがる面倒くさいオジサンが、貴方の周囲にも居るかもしれない。なにを隠そう、筆者もその一人である。 たしかに前世紀後半のプジョーは、ミドル級の504や505のみならず、小型の205や306でも、しなやかでコシのあるサス・セッティングを身上としてきた。しかし、構造上重心が高くなるSUVとネコ脚は、どうあっても相性が宜しくないはずと予測していたが、いざSUV2008を走らせると、これがなかなか良い。
スピード・レンジを問わず乗り心地は良好で、コンパクトSUVなのに上質感もある。一方、1270kgの車重を利してフットワークも軽快。「SUVにしては」という条件つきながら、ネコ脚と言えなくもない。 ピニンファリーナ時代の端正なプジョーが好きな筆者には、現行の4ケタモデルは大仰に映り、いささか敬遠気味だった。でも、実際に乗ることで大いに見直すとともに、急速に魅力的とも感じられたのだ。
ライバルひしめくアーバンSUVマーケットでプジョーSUV2008が他をリードしているのは運転支援機能の優秀性だ。ACCもLKASも操作しやすく、確実かつ正確に作動した。そして、これが重要なのだが、運転支援機能の作動状況がとても良くわかるようにメーター・パネル全面を使って表示されて安心できる。そのメーター・パネルが斬新で、3Dっぽく奥行きが深いように見えたり、用途によって5通りに表示を変えられる。高速道路や自動車専用道で運転支援機能を使う時には、自分のクルマと前方のクルマ、左右の白線が見えているかどうかを大きく的確に表示して、ドライバーインターフェイスを確実に担保してくれる。ミニマムな表示も選べるのも良い。賛否両論ある異形ステアリング・ホイールはメーターがよく見えて良いと思う。SUVを謳う割にはトランクの上下高が少なく、奥行きも今ひとつ足りないが、リア・シートを畳むと挽回できる。エンジンのトルクが細く感じられる時もあるが賢いトランスミッションがカバーしている。
犬の散歩で道を歩いていると同じプジョーのSUVモデルの3008が颯爽と走り去るのを時々見かけるのだが、数あるSUVのなかでもシャープなスタイリングが際立っていて、街中で見ても本当にカッコイイと思う。2020年9月に登場した現行モデルのSUV2008もスタイリングは同じ“路線”。だが前モデルに対し全長+145mm、全幅+30mm、ホイールベース+70mm(全高は−20mm)と、ずいぶん立派に。要するに上級車の3008に近づいた印象。実用面では、ホイールベースが伸びた分、後席の居住性が大きく向上した。奥行き96cm、幅100cm以上、高さ40cmほどのラゲッジ・スペースも広く使いやすい。試乗車は“e”ではなく、3気筒の1.2リッターガソリン・ターボ搭載車だったが、気持ちのいいパワー・フィールと、ハッチバックの208と車重、ホイールベースの差分の穏やかさが実感できる挙動、ハンドリングを身につけている。全高が1550mmに抑えられているところからも、日常使いにちょうどいい実用性、室内空間、快適性が魅力のクルマだ。
(ENGINE 2021年4月号)
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