2021.11.04

LIFESTYLE

今、水煙草が静かなブームに シーシャで味わう何もしない贅沢

さまざまなフレーバーの煙草の香りを楽しむシーシャ(水煙草)。
非日常な空間での無為な時間が人気を集めている。

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専門店が次々にオープン

「時間を無駄に過ごすことは素晴らしい」──1985年のイタリア映画「マカロニ」の中で、主演のマルチェロ・マストロヤンニが語るセリフである。隣にはアメリカの航空会社副社長役のジャック・レモン。エグゼクティブらしく常にナーバスになっているレモンが、ナポリで旧友のマストロヤンニとの再会を経て少しずつ人間性を取り戻していく。夕陽に包まれたナポリの海岸の雰囲気と絶妙にマッチした名シーンだ。

無為をそぎ落とすことを美徳とする風潮は、グローバル化、デジタル化の進行と軌を一にして甚だしくなっている。楽しみで始まったSNSも、やがてPVやクリックという数字で雁字搦めにされる。無駄に過ごす時間はますます希少なものになりつつあるようだ。



そうした流れに逆らうように、静かなブームになっているのがシーシャと呼ばれる水煙草。熱した煙草の葉を水に通し、吸って楽しむ。発祥地はオスマントルコ、エジプト、インドと諸説あるが、もともとは糖蜜を浸した煙草葉を使った「ザグルール」というスタイルが中心だった。それが30年ほど前にエジプトのメーカーがさまざまなフレーバーのシロップを加えた「モアッセル」を開発。それがあっという間に世界に広がる。日本でも2010年前後から専門店が出来るようになった。



煙草の煙とシロップの蒸気のハーモニー

紙巻きに比べて水に通すことでニコチンやタールは軽減されるが、煙草である以上、20歳未満は使用禁止などの規制はかかる。ただ煙草特有のニコチン臭はなく、甘い香りが心地いいため、ノンスモーカーの愛好者も多いという。喫煙時間は火をつけてからおおよそ1時間半から2時間程度。ひとつの機器にひとりずつ吸い口をつけ、飲みものといっしょに物思いやおしゃべりに興じる。フレーバーもフルーツ系やスパイス系、ミルクティーなどの飲み物系と多彩だ。何より凝った意匠の器具や口からこぼれる白煙がエキゾチックな雰囲気を駆り立てる。



さまざまなストレスに包まれた現代だからこそ、煙を吐き出すだけの時間はやはり贅沢。だが無為あっての有為と考えれば、不急であっても不要ではない。シーシャがもたらす至極のリラックスを堪能したい。

文=酒向充英 写真=杉山節夫

(ENGINE2021年11月号)

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