銀色に輝く姿はまるでロケット！　六甲山が見えるSF映画のような家

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模型は、玄関を開けると少し狭まっていて、その先に庭のドングリの木が見えるもの。このプランは喜多さん達の心を奪い採用となる。建築家が特に苦心したのは採光だ。実はこの土地には厳しい規制があり、敷地は中央部しか使えない。しかも南側の隣家は近く、東側は人通りがある。そこで建物の前に少し距離を置いて銀色の壁を作り（これがロケットに見える）、二つの壁の間から光が入るようにした。一方、遮るものが無い西側は、2階の上にペントハウスを設け全面を窓に。スキップフロアーで、1階のリビングは3階分の高さの吹き抜けにした。主寝室は、吹き抜けに浮いた小屋のような構造で、窓や天窓が設けられ光を取込む仕組みになっている。

3階分の高さが全て窓で、向こうに六甲山が見える眺めは格別だ。東側の1.5階に相当するキッチンからも、2.5階の主寝室からも、絶景が楽しめるように設計されている。家が完成して間もない頃は嬉しくて、喜多さんやお嬢さんは2階の窓際のキャットウォーク部に布団を敷いて寝たこともあった。

随所に独自の遊び心が

現在、そのキャットウォークには、銀色の植物のようなオブジエが置かれている。作家・宜本伸之氏による野点傘で、アーティストの浜崎健氏がバーニングマンのイベント時、真っ赤な着物に白塗りで、砂漠でお茶をたてた時に使ったものだ。玄関ドアの把手も、当初は奥和田さんが選んだミニマムなモノだったが、宜本氏の手による有機的な作品に交換している。基本的な部分は奥和田さんに全面的に任せたが、細部は夫婦の独自の好みを反映させているのが喜多家流だ。その一例が主寝室横のクローゼットだろう。奥様の要望で壁はピンクに塗られ、装飾のあるカーテンで仕切った。実は建築家は、「スーツを誂えた時、意外性のある裏地を使うのと同じ」と、遊べる余地を予め残していたという。

それにしても、建築家がプロファイリングした通りの夫婦だ。そうした独特の遊び心は、カーライフにも表れている。喜多さんはスーパーカー世代でクルマ好き。最初に手に入れたのはランチア・デルタ・インテグラーレ16Vだ。ラリーで活躍したモデルで奥様とデートしただけでなく、MT仕様のこのクルマの運転を奥様も楽しんだという。そして子供ができて何台かワゴンを乗り継ぎ、家族のクルマとして現在使っているのがメルセデス・ベンツ・Eクラス・オールテレイン（2018年製）である。だが屋根の開くクルマも欲しくて、3年前に4気筒ターボのポルシェ・ボクスターも手に入れた。これを二人で運転し、500キロ離れた小田原まで、美術家・杉本博司の美術施設を訪ねて行ったりするのである。自宅で仕事をする喜多さんと違い奥様は外での仕事なので、「僕より乗る機会が多い」そうだ。

そして1カ月前に入れ替えでやってきたのが、ボクスター・スパイダー（2021年製）である。

「6気筒なので走りが大人で気持ちいいですね。それに、後ろから見た蝙蝠のような幌の形や、重量軽減のために作られたパーツのひとつひとつが美しいんです」

と、大満足の様子。普段クルマを購入する際は夫婦で相談するが、今回はディーラーで見せ、事後承諾を得ただけ。奥様は納車前に、幌が手動のうえ、今までのようにキーをハンドバッグに入れたままではエンジンがかからないと知って驚いた。

「けれども主人はこのクルマにロマンを感じているんです。知人の、窓が着脱式の古いクルマと比べると遥かに機能的ですから、けっして問題ではありませんよ」

楽しいことのためなら、少々の不便さも笑って前向きに考える喜多さん夫婦。こういう二人だからこそ、唯一無二の住宅が生まれたのは間違いない。

構造：木造　規模：地上2階「+半地階」　敷地面積：151.61平方メートル建築面積：60.06平方メートル　延床面積：112.63平方メートル　竣工年：2016年所在地：兵庫県西宮市　設計：奥和田健建築設計事務所 https：//okuwada.com

奥和田健：1970年奈良県生まれ。学校を卒業後、音楽やアートに接して建築に目覚め、建築事務所に勤めながら夜間学校に通い一級建築士の資格を取得。10年で自分の事務所を設立する。代表作である喜多邸は大きな転機となり、以後、施主の人となりを読み解いて設計するように。写真の住宅も難しい敷地ながら光を上手く取り込んだもの。長いことVWコラードV6に乗っていたが、家族ができ今はEクラスセダンが愛車。

文＝ジョースズキ　写真＝田村浩章

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（ENGINE2022年2・3月号）

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