2023.04.28

LIFESTYLE

全英アルバム・チャートで1位 22年前に登場していた世界一人気の元祖ヴァーチャル・バンド、ゴリラズの新作が面白い! スティーヴィー・ニックス、サンダーキャットらとコラボレーション!!

通算8作目のアルバム『クラッカー・アイランド』(ワーナー)

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英米の音楽チャートをゴリラズの新作が賑わせている。アニメキャラの4人組からなる世界一有名なヴァーチャル・バンド、どんな音楽を鳴らしているのか?

20数年後の世界を先取り

全英アルバム・チャートで初登場1位、全米チャートでも3位に輝いたゴリラズの8作目『クラッカー・アイランド』を紹介しよう。と、その前に、まずゴリラズとはどういうバンドなのか。一言で書くなら、世界で最も有名なヴァーチャル・バンドだ。それぞれが明確な個性と背景を持つアニメ・キャラ4人組で、生み出したのはブラーのデーモン・アルバーンと漫画家のジェイミー・ヒューレット。結成は1998年で、ヴァーチャル・バンドとはいえ映像×生バンド演奏で大規模なARライブも展開するし、2006年のグラミー賞ではマドンナとの共演パフォーマンスで驚かせもした。今でこそ我々はヴァーチャルなキャラクターが音楽を奏でるというコンセプトだったりARライブだったりを普通に受け入れているが、ゴリラズがデビューした22年前はまだ頭で理解はしていても、一時の遊び的なものと捉えていたところがあった気がする。まさかデビュー盤から22年経っても続いていて、8作目のアルバムがこうして全英1位、全米3位になるとは思わなかったし、テクノロジーの進歩によってそのコンセプトがこれほど時代とマッチするときが来ることも想像できなかった。

またゴリラズは当初から様々なゲストを迎え入れたコラボ祭り的なアルバム作りをしてきたし、作品毎にその時々の社会的イシューや政治思想を潜り込ませることもしてきた。つまりデーモンは20数年前に現代の音楽シーンのあり方を予見していたわけで、ゴリラズとは即ち「こうなるだろうという未来」を異種混合のポップミュージックとして鳴らしてきたバンドなのだ。



毒と怖さと哀しさも

新作『クラッカー・アイランド』でも彼らは様々なジャンルのゲストを迎え入れている。スティーヴィー・ニックス、サンダーキャット、テーム・インパラ、バッド・バニー、ブーティー・ブラウン、アデレエ・オモタヨ、ベック。シンセを多用したサイケ感ありのエレクトロ・ダンス曲が今作は多めだが、とりわけスティーヴィー・ニックスを迎えた80年代風メロディーの「オイル」が気持ちよく耳に残る。アルバム後半に収録されたカリブ系ポップもやけに爽やかで楽しい。

だが、例えばサンダーキャットとの表題曲で描かれているのは、(今の日本じゃないが)カルト宗教が幅を利かせる島だったりと、現代社会の問題を鋭い観察眼で批評的に表現しているあたりはいつもの通り。普遍性もある風通しのいいポップ・アルバムのようでいて、彼ららしい毒と怖さと哀しさも有しているし、ゴリラズというヴァーチャル・バンドがそもそも持つ批評性を改めて感じることにもなる。実に2023年的なアルバムだ。

文=内本順一(音楽ライター)

(ENGINE2023年5月号)

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