『ENGINE』8月号では「2023年、推しの1本はこれだ！」をテーマに時計を大特集（前篇）。編集部が信頼する時計ジャーナリストと目利きたちでエンジン時計委員会を結成し、時計好きとしての原点に立ち戻り、2023年のイチオシの時計について、その熱い想いを打ち明けてもらった。
今回はエルメスから、「エルメスH08」の最新作、ブラック×ゴールドを紹介する。
時間ではなく時を見る
篠田哲生（時計ジャーナリスト）個人的には、餅は餅屋でないとね、とは思うのだが、近年のラグジュアリー・メゾンが作る時計は無視しがたい。特にエルメスの時計は、かなり気になる存在だ。そもそもエルメスの製品は、長い時間をかけて丁寧に作られてきた。つまり時間とは、豊かさの象徴である。それは同社の時計にも当てはまり、現在時刻を表示するものではなく、美しい時間を描くものと考える。そもそも無味無臭の正確な時間は、スマートフォンに任せておけばいい。その代りに時計に目を落とす瞬間は、幸せを感じたい。「エルメスH08」は、ただただ美しいクッションケースを愛でるためにある。そして人々を、時間から解放するためにあるのだ。あまりにもエルメス
本間恵子（ジュエリー＆時計ジャーナリスト）エルメスを100％搾った新鮮なジュースのようだ。エルメスらしさをギュッと凝縮したらこうなりました、というのを見せられた気分。「我々は単なる時計を作っているのではない。エルメスそのものを作っているのである」──何だかそんな声がはるか上空から聞こえてきそうなのは気のせいか。デザインはとにかく洗練されていてスタイリッシュ。ディテールも凝っていてすばらしいのだが、エルメスらしくあろうとするあまり、いささかニッチなモデルになっている感が否めない。きっと単なる時計好きな人は、この時計は選ばない。知的でファッショナブルで、センス抜群の人が愛用するのであろう。そういう人に私もなりたい、という気持ちを込めて推す。伝説の男のスピリット
松尾健太郎（「THE RAKE JAPAN」編集長）「市場に他の人が何世代にもわたってやってきたことを持ち込んでも意味がない。ファンタジーやユーモアなど、他とは違うものを作れ」と言ったのはエルメスの元CEO、故ジャン＝ルイ・デュマである。バーキンを生み出し、銀座にガラスのタワーを建てた伝説の男だ。以来エルメスでは、時計デザインの可能性に挑戦し、得意とするレザーやシルク地の文字盤を試みたこともあった（実現はしなかったが）。そしてついに、他のどの時計にも似ていない「エルメスH08」を大ヒットさせた。これまで機械式時計はメカばかりが注目されてきたが、「エルメスH08」は時計にオリジナリティの時代が来ることを予言している。天国のジャン＝ルイも、会心の笑みを浮かべているだろう。エルメスH08
スクエアとラウンドの要素を併せ持つフォルムと、独創的なタイポグラフィーを配したダイアルが絶妙な「エルメスH08」。最新作の基調はブラック×ゴールドだ。ピンクゴールドのミドルケース、ブラックセラミックのベゼル、DLC加工のチタンケースバック、ブラックゴールドのダイアルによってスタイリッシュな味わいを0際立たせた。自動巻き。ケース縦39mm×横39mm、10気圧防水。ラバーもしくは布帛のストラップ。217万8000円。問い合わせ＝エルメスジャポン Tel.03-3569-2200写真＝宇田川 淳
(ENGINE2023年8月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
いますぐ登録
会員の方はこちら
