2023.09.28

CARS

20人のメカニックのほかに50人以上の技術者やスタッフがレースを見守る アストン・マーティンF1チームのピットを探索

レッドブルF1チームのマックス・フェルスタッペンが今季13勝目を挙げ、2023年のコンストラクターズ・タイトルを決めて無事にその幕を下ろした今年のF1鈴鹿GP(グランプリ)。F1の面白さはもちろん、メインである決勝レースや予選などF1が走るイベントであることは間違いない。しかし、それ以外にもいろいろな楽しみ方ができるのがF1の良いところ。今回はその中から裏舞台、いわゆるパドックやピットについて取り上げてみたいと思う。

鈴鹿でも本場欧州と同じ

20台のマシンと並んでF1GPの華といえるのが、林立するモーターホームとともに各ピットを彩るカラフルなストラクチャー(ピット内部の設え)だ。残念ながらヨーロッパ・ラウンド以外では、もはやビルと呼ぶにふさわしいほど大きく豪華なモーターホームの姿を見ることはできないが、ピット内は鈴鹿でも本場と同じものを見ることができる。

2023年鈴鹿GP

3サイズ、6セットを用意

「ここにあるのは、先週のシンガポールGPのセットとは違うものです。我々は6セットのストラクチャーを所有していて、GPのスケジュールに合わせてやりくりしています。鈴鹿の場合は先週の初めに機材とセットアップ・クルーが入り、セッティングを始めました。彼らがまずやることはピットの床を塗ること。それが乾いたら建て込みを始めます」

アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワンのピットツアーに参加してみると広報女史はそう切り出した。

「ガレージの間取りや大きさは、行く場所によって違います。鈴鹿はミドル・サイズ。先週のシンガポールはスモール・サイズでした。ほかにマイアミなどで使うビッグ・サイズがあります」

2023年鈴鹿GP

1台につきメカニックは9~11人

そう言われてピット内に入ると一見同じように見えるものの、今年の5月にモナコGPで見たものに比べると、スペース的に随分余裕があるように感じられた。さらによく観察してみると、マシンを照らす上部照明が左右1セットずつ追加されているほか、クルーのヘルメットやツールボックスの位置などもまったく違うのがわかる。どうやらいくつかのモジュールになっているストラクチャーを組み合わせることで、各国のピットのサイズに対応するようになっているようだ。

「ピットロード側から見て右がフェルナンド・アロンソ、左がランス・ストロールの場所になります。フェルナンドはマシンの左側から乗り込むルーティーンを持っているから、左サイドにスペースを設けたりと、それぞれに合わせてあります。1台のマシンを担当するメカニックは9人から11人ほど。情報共有はしますが、それぞれが専属のチームとなります。そうすることでドライバーとメカニックの信頼関係を深めることができるのです」

2023年鈴鹿GP

230のセンサーで走行データがチェック

その後、ピットの中央奥にあるゲスト用のスペースに誘われ、しばらくの間ピット作業を観察した。このゲストスペースも8つの個別モニター(タッチスクリーンで、レース中継、各車のオンボード、GPSマップなどを自由にセレクト可)と、ドライバーとの無線が聴けるヘッドホン付きという豪華なもので、F1の凄さを改めて思い知らされる。

「それぞれのマシンは230ものセンサーで、常時データがチェックされています。センサーは2種類あって、1つがフロア、リア・ウイング、タイヤ、燃料レベルなどを監視するリライアビリティ(信頼性)センサー。もう1つがデータトラッキング(追跡)センサーです。リライアビリティ・センサーは常時付いていますが、データトラッキング・センサーは金曜のFP1(フリー走行1)、FP2のみ。そこで集めたデータが日曜のレース本番に活かされるのです」

我々の前で忙しなく動き回るスタッフは直接マシンを触るメカニックがほとんどだが、実は彼ら以外にデータを分析する大勢のスタッフが常駐しているのだそうだ。

「これらのデータはピットの別部屋にいる25人のエンジニアの元にも届けられ、高度な分析が行われます。さらにミッション・コントロールでは30人のスタッフが自分たちはもちろん、他チームの同様なデータも解析。それらを総合して、様々な判断、指示がなされます。昨年まではミッション・コントロールは特定の時間だけ作業ができるという制限がありましたが、今年は撤廃されたので自由になりました」

2023年鈴鹿GP

F1もネットゼロカーボンを目指す

ここで1つ気がついたのは、一部グラフィックは変わっているものの、ピット・ストラクチャー自体は去年鈴鹿で使われたものと、ほとんど同じということだ。

「進化しているものといえばタイヤ・ブランケットですね。FIAは2026年までに段階的に廃止することを検討していますが、昨年までは0度から70度に加熱するのに3時間かかったのに対し、今年は1時間短縮して2時間になりました」

また今回、鈴鹿に来て気になったのが、ピット周りの匂い。言葉で上手く表現できないのだが、少し甘いような、えも言われぬ匂いが漂っているのだ。実はこれは今シーズンからF1マシンの燃料に採用されているE10燃料の匂い。聞けば、ガソリン90%に対し、10%のバイオエタノールが混合されているのだそうだ。

ちなみにF1では2030年のネットゼロカーボンを目指し、完全カーボン・ニュートラルなE-フューエルの開発も進めている。その大きな力になっているのが、アストンマーティン・チームのスポンサーであり、世界最大の総合エネルギー・化学企業のアラムコ(サウジアラムコ)なのだ。

なかなかテレビを見ているだけでは分からないところだが、やはりF1GPはあらゆる面で世界をリードしている最高峰の自動車レースなのである!

2023年鈴鹿GP

文=藤原よしお 写真=藤原よしお、Aston Martin Aramco Cognizant Formula One、Aston Martin Lagonda Limited

(ENGINE WEBオリジナル)

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