2024.09.29

CARS

脳ミソも溶け出すものすごい高揚感! フェラーリF12ベルリネッタはF1エンジンの音がした!【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】

フェラーリF12ベルリネッタ

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脳ミソが溶け出す高揚感

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村上 でも、乗っていて分かったのは、軽快感の一番の源は、実は、6.3リッターV12エンジンの並外れて滑らかで軽やかな回転フィールにある、ということだ。12気筒が完全バランスであることを久々に思い出した。

齋藤 同Vバンク角が実際には65度なのに60度クランクを使っているから、微妙な不等間隔爆発になって、厳密には完全バランスではないはずだけれど、そんなことはおかまいなしの超絶級のスムーズさがある。

村上 最高許容回転数は8700rpm!けれど、そこに到るずっと手前で途方もないトルクが奔流のように溢れ出てくるから、一般道ではとてもじゃないけれど、そこまでは回しきれない。もうひとつ特筆すべきは、音だ。回転が低い時は中音域の少し太めの排気音が支配しているが、それが回転の上昇とともに一段高い音域へと変化していく様は圧巻だ。テノールからアルトへとシフトする。

 V12エンジンの前端は前車軸よりも後ろに位置する完全なフロント・ミドシップ搭載。FF用と基本設計を同じくする6.3リッター12気筒エンジンは、F12用に仕立て直され、実に740psもの高出力を8250rpmで発揮する。軸出力はリアのトランスアクスルへ送られる。大きな熱交換器はオーバーハングに寝かして納められている。無駄がありそうでどこにもないレイアウトだ。


齋藤 昇り詰めていく感じがたまらない。パドルで頻繁にマニュアルシフトしながら、その度に響き渡る快音に包まれていると、もう抗いようなくバカになってしまう。あの翌日、撮影で伊豆の下田までいく真夜中の海岸通りでシフトを繰り返し、われを忘れてV12サウンドに聴き耽ったことを白状します。あれはもうF1マシンの音だよ。ハイピッチで歌う自然吸気マルチシリンダー・エンジンの魔力そのもの。あの音を聴くためだけにF12ベルリネッタを買うという人がいても、ぜんぜん不思議じゃない。

村上 面白いのは、同じV12フェラーリでも、FFとF12では音も乗った感触も、ずいぶん違っていることだ。FFは気がつくといつの間にかとんでもないスピードが出ていてびっくりするというタイプで、今にして思うと、F12より音もずっと抑えられていた。F12は常にドキドキさせる。そして、回せば回すほどに、飛ばせば飛ばすほどに、その高揚感がさらに高まっていく。最後はひょっとすると、脳ミソが溶けて耳の穴から流れていっちゃうんじゃないか、と心配になるくらいだ。一方、これがミドシップV8の458系になると、むろん高揚感はあるけれど、脳ミソは溶け出さない。むしろ、飛ばすほどに頭は冴えていく。



齋藤 F12 のあの高回転域のトルクの凄まじさ。底知れない加速感に血の気がひくからね。しかも、足腰は盤石ときているから、低いギアではついつい味わいたくなっちゃう。ミドシップの怖さがないからなんだろうね。極度の緊張を予期して身構える必要がないというのかな。コーナリング・マナーにしても、前後の強大なグリップに任せたオン・ザ・レールのまま、かなりのところまで行ってしまえる。しかも、トラクション・コントロールは超一流ときているから、よほどのことがない限り、あるいはとんでもないヘマをやらかさないかぎり、危うい事態に陥りそうにない。ネジも外れるわけだよ。

アバタもエクボ


村上 それにしても、こんな凄いクルマを目の当たりにしちゃうと、ため息が出ちゃうよね。単に走りがイイというだけでなく、オーナーの所有欲をかき立てる上質感、高級感に溢れている。穴ぼこだらけの外観は好き嫌いが分かれるかも知れないけれど、ドライバーズ・シートにひとたび収まれば、紛れもないフェラーリ・ワールドに浸ることができる。

この音を聴くためにF12を買う人がいても不思議じゃない。


齋藤 スポイラーの類いに頼らずに望む空力性能を得る、というスタンスを崩していないものの、その分、エアロダイナミクスにある程度の理解がないとすんなりとは腑に落ちないエア・トンネルやダクトが大胆に組み込まれているから、クラシカルな審美眼に叶うものには必ずしもなっていない。ロング・ノーズ+ショート・デッキのプロファイルは古典的なそれなんだけどね。一方、インテリアの細かい仕立てはオプションでいかようにもなるし、それでも足らなければ、テイラーメイドですべて自分好みに仕立て直すという手もある。そういえば、F12、ドライビング・ポジションが良かったね。ヒップポイントはかなり低くセットできるようになっていた。スポーツ・ドライビング好きには朗報だよ。

村上 正直に言うと、乗るまではあの恰好に魅力を感じられなくて、あまり期待していなかった。ところが、乗ってしまえば、アバタもエクボ。あの穴ぼこがさすがだな、と思えてくるから不思議だ。

齋藤 ポルシェ信者をしてそう言わしむるものがF12にはある!

村上 3590万円! というプライス・タグが適正かどうかはよくわからないけれど、あの走りを体験してしまえば、これなら高くても仕方ないと納得させられてしまうんじゃないかと思う。

齋藤 本物のお布施というのはそういうものです。騙されて払うのではなく、納得して自ら進んで納める。今年はご本尊のF1も勝ちまくるよ、きっと。ありがたや、ありがたや。

語る人=村上 政(ENGINE編集長)/齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=小野一秋

■フェラーリF12ベルリネッタ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4618×1942×1273mm
ホイールベース 2720mm
トレッド 前/後 1665/1618mm
車輛重量 (前/後)1770kg(830kg/940kg)
エンジン形式 自然吸気V型12気筒DOHC 48V
総排気量 6262cc
最高出力 740ps/8250rpm
最大トルク 70.4kgm/6000rpm
変速機 デュアルクラッチ7段自動MT
サスペンション形式 前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション形式 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCM3)
タイヤ 前/後 255/35ZR20/315/35ZR20
車両本体価格 3590万円

(ENGINE2013年5月号)

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