2024.05.30

CARS

世界で一番コンディションがいいアルファスッド・スプリントかも 隅々まで新車のようなアルファ・ロメオ

旧いアルファ・ロメオは1960年代に登場した105系の「ジュリア」シリーズばかりが注目されがちだが、「アルファスッド」や「アルフェッタ」といった魅力的なモデルも存在していた。現在もアルファスッドやアルフェッタを愛用しているオーナーが少なからずいるので、魅力的なモデルも存在している、と記した方がいいだろう。そんな熱心なファンがいることを物語るように2024年4月12日~14日までの日程で開催されたオートモビル・カウンシル 2024においてもアルファスッドの売り物を発見することができた。

ガレーヂ伊太利屋が出品

ガレーヂ伊太利屋が販売していたのは1980年式の「アルファ・ロメオ・アルファスッド・スプリント1.5ヴェローチェ」で、528万円というプライスボードを掲げていた。メーター表示の走行距離は2万6100kmで、車検は2025年6月。ボディ・カラーはメタリックブルーで、内装はビニールレザー×ファブリックであった。イイお値段だったこともあり、細部の状態が気になって隅々まで見せてもらったが、どこもかしこも新車のようなコンディションで、こりゃ安いぐらいだわ……と思ってしまった。



アルファスッドのヒストリー

ここで、今回紹介する1976年にデビューしたアルファスッド・スプリントを含め、アルファ・ロメオ初のFF(前輪駆動)車として1971年に誕生したアルファスッドのヒストリーをおさらいしておくことにしよう。

小型大衆車マーケットへの進出を決定したアルファ・ロメオがニューカーとして1971年のトリノ・ショーで発表したのがアルファスッド。従来モデルのパーツを一切使わない完全新設計の意欲作であった。デザインを手掛けたのは、初代「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や初代「フィアット・パンダ」の生みの親でもある世界的に有名な工業デザイナーのひとり、ジョルジェット・ジウジアーロ氏だ。車名のスッドとはイタリア語で南を意味する言葉で、当時イタリアの国営企業であったアルファ・ロメオが南部の工業化を進める国策の下で新しく建設したナポリ近郊の工場で生産されたことに由来する。



よくサビて、朽ち果てる

これはアルファスッドを語る際に必ず出てくる有名なエピソードだが、工場の建設が計画通りに進まず、ボディに使用する鋼板(ソビエト連邦から輸入されたものだといわれている)が数ヶ月間にわたって露天にて放置され、すでに錆びている鋼板に不完全な防錆処理を施しただけで塗装してしまったので、初期アルファスッドのボディは驚くほどよくサビて、朽ち果ててしまうものが多かった。

また、アルファスッドの輸入に携わっていたことがある自動車趣味の大先輩から聞いた話では、日本に輸入された新車の中にイタリア南部の工員が食べたと思われるお菓子の袋や組み立て時に使った工具などがいろいろ入っていたそうだ。そんなこともあって、アルファスッドはイタリアだけでなく日本においても低品質車として認識され、結果として、アルファ・ロメオ全体のイメージを失墜させることになった。しかし、その一方でアルファ・ロメオの名に恥じない素晴らしいハンドリングがクルマ好きから称賛され、4ドア・セダンならではの広い室内を持つ実用車としての側面も高く評価された。



ジウジアーロの作品

1973年に高性能版となる2ドア仕様のアルファスッドtiが追加設定され、問題となっていた防錆対策も施されるようになり、一定数の顧客を獲得するようになる。そのような活況および南部工場の生産能力向上などを追い風にクーペ・バージョンとなるアルファスッド・スプリントが1976年に登場。アルファスッド・スプリントもまた、ジウジアーロの作品だ。

精悍なエクステリア・デザインを有し、セダン時代から高評価だったハンドリングがさらによくなったことで、アルファスッド・スプリントは戦後アルファ・ロメオのスポーツモデルだけが名乗ることを許されたスプリントという車名に恥じない4人乗りのスポーツカーに仕上がっていた。

ツインチョーク・キャブレター2基を装備し、エンジンの圧縮比を高めてパワーアップを図ったアルファスッド・スプリント・ヴェローチェは1979年に登場した快速モデルで、1.3リッター・モデルが86ps、1.5リッター・モデルが95psという最高出力を誇った。ちなみに、1.5リッター・モデルの最高速度は175km/hだとアナウンスされている。



錆びている部分がない激レア車

ボディがビックリするほど錆びてしまうため、この世から消失してしまったアルファスッドが多いが、ガレーヂ伊太利屋が幕張メッセに持ち込んだアルファスッド・スプリント1.5ヴェローチェは錆びている部分がない激レア車で、もしかしたら世界で一番コンディションがいい個体かもしれない。

張り替えられたシートは、レカロシートにチェック地のファブリックとブラウンのビニールレザーを組み合わせたもの。機関系にもしっかり手が加えられており、2021年にエンジンおよびミッションをオーバーホール。ダンパーを刷新し、マフラーをアンサ製、ホイールをカンパニョーロ製に交換している。日常使いが可能なので、このクルマを買ったオーナーは雨の日に乗ることもあると思うが、雨天走行後は必ず車体を乾燥させるようにしながら末長くアルファスッド生活を堪能してもらいたい。



文・写真=高桑秀典

(ENGINE WEBオリジナル)

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