2024.10.13

CARS

【試乗篇】ハイブリッド化された新型ポルシェ911カレラGTS 試乗して感じたその欠点とは? ハイブリッドとノンハイブリッドを乗り比べた現時点の結論は

写真は911タルガ4GTS。今回の試乗会にはカブリオレやタルガ、4WDモデルも用意されていた。

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1mmたりとも電気モーターだけでは走ることができないハイブリッド・モデルとして登場した911カレラGTS。小さなリチウム・イオン・バッテリー、レーシングカー由来の電動ターボ、驚くべき新技術を満載した新型カレラGTSを詳述したテクニカル篇に続いて、今回はいよいよその試乗篇をお送りする。果たして、その乗り味はどうか。スペインで開かれた国際試乗会からエンジン編集部のムラカミが報告する。

GTSとカレラの違いは?


試乗当日も快晴。まずはホテルから山の上のロンダという町の近くにあるアスカリ・サーキットまで、タルガ4GTSとカレラ・カブリオレに試乗した。私はまずタルガから。

いつもなら、走り出して数10mも乗れば、そのクルマのおおよその乗り味が掴めるのだけれど、今回はちょっと違っていた。とにかく、動き出しがウルトラ・スムーズで、そこからの加速もレスポンス、リニアリティともに申し分なく、回転数を上げるに連れて、いつものフラット6の吠えるような音が背後から聞えてくる。さすがはポルシェ、素晴しい出来映えの新型911をつくり上げてきたなとは思うのだが、何かが違う気がする。モヤモヤとした曖昧な感触が私の中に拡がっていった。

今回の試乗会にはカブリオレやタルガ、4WDモデルも用意されていた。写真はガーズ・レッドのカレラ・カブリオレ。

なにしろ、別荘地のようなところを走っているだけなので、スピードが出せない。ようやく飛ばせる道になっても、タルガはオープンにしていると70km/h付近から風の巻き込みによるひどいハウリング音を発生するので、飛ばす気になれない。それに、オプションのPDCCが装着された足は意外に硬めで、しかもクルマがかなり重い感じがする。せっかくのT-ハイブリッドを思う存分試す機会なく、私の最初の40分の試乗時間は終わってしまった。

その後、助手席で過ごした後、次に私が試乗したのはカレラ・カブリオレだった。すでに別荘地は抜けて、アスカリ・サーキットに向けた山道に来ている。正直に言って、このクルマの走りっぷりがあまりにも素晴しかったので、先ほどまでのモヤモヤした気分はいっぺんに吹き飛んでしまった。と同時に、GTSとカレラの違いが徐々に見えてきた。

先代GTSのターボを移植された新型カレラのエンジンは、スロットルを開ければわずかながらのターボ・ラグの後にドーンと加速して、これまで以上の凄まじい加速を見せる。そしてコーナーの手前でブレーキングすると、ターボのウェイスト・ゲートが開いて、プシャ、プシャと、これまたこれまで以上に大きな音を立てる。ウェイスト・ゲートを持たないGTSのT-ハイブリッドにはこの音と、盛り上がって途切れるメリハリ感がまったくなかったのだ。

とにかく、カレラ・カブリオレは風の巻き込みもなく、とにかくクルマが軽い感じがして、よく曲がるから、山道を走っていて楽しいことこの上なかった。これまでターボになったカレラのエンジンにはいささか疑問も抱いていたのだが、この日ばかりは、「これよこれよ、これこそが911の走りだ!」と独りごちながら、思い切り飛ばしてしまった。

サーキットに着き、コースインまでの間に、もう1台、カレラGTSカブリオレに公道で乗った。今度は山の上の飛ばせる道なので、先ほどのストレスはない。それでいよいよ、GTSの本質が明確になってきた。

GTSはとにかく速い。発進から高速まで、どこからどう踏んでも、踏んだら踏んだだけ瞬時に加速する。そして、そのままパワーがまったく途切れることなく、どこまでもリニアに加速を続けて行くのだ。ある意味では自然吸気のような感触なのだが、逆にあまりにもリニア過ぎて落ち込みがまったくなく、メリハリ感が希薄なところが自然吸気エンジンとも違っている。たとえば、シフト・アップ時にもダウン時にも、これまでの内燃機関モデルのようなショックはほとんどない。そもそもPDKはシフトが超絶に上手くてショックが少ないが、あいだにもうひとつ電気モーターが挟まったことで、さらにショックが軽減されたのだろう。

写真はカーマイン・レッドのカレラ4GTSだ。

さらにサーキットで、カレラ、カレラGTS、カレラ4GTSの3台に乗って、その違いを確かめた。

カレラはこれまでの911の乗り味を、まったくそのまま引き継いでいる。パワーアップしたエンジンのおかげで加速時には素晴しい加速を見せるし、ブレーキング時の減速Gのかかり方もフロントが軽いポルシェならではのものだ。コーナーリング性能も先導車のターボSと同じように攻めていくと少し縒れる感じはあるものの、まずまずだと思ったのだけれど、GTSに乗り換えるとすべてのレベルが一段上であることがわかった。同じ速度で走っていても、GTSはコーナーでまったく縒れることなどない。標準装備になった4WSに加えてオプションのPDCCも付いたGTSは、途轍もない安定感であらゆるコーナーをクリアしていく。立ち上がりの速さもターボSと遜色ないどころか、出足の瞬発力ではこちらが上かも知れない。

サーキットのような速さこそが善の世界では、断然カレラよりGTSに分がある。メリハリの無さも、速さが善の世界では何らマイナスではないのだ。もし、あえて欠点を探すとすれば、それは重さだろう。ポルシェは先代比50kgしか重くなっていないと言うが、それはリア・シートなしを標準にしての話だ。それだけで7kg誤魔化しているわけで、オプションも入れれば、実際には1.7t以上あるのではないかと思う。4GTSともなると、さらに走りの安定感が増していたものの、重さも増えて楽しさはその分減る感じがした。

そこで結論。私なら今はカレラを選ぶ。T-ハイブリッドは始まったばかりだ。これから進化して、もっといい味を出してくるに違いない。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ポルシェA.G.

■ポルシェ911カレラGTS
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4553×1852×1296mm
ホイールベース 2450mm
車両重量(DIN) 1595kg
エンジン形式 水平対向6気筒電気モーター付ターボ
排気量 3591cc
ボア×ストローク 97.0×81.0mm
最高出力(システム計) 485ps/6500rpm(541ps)
最大トルク(同上) 570Nm/2000-5500rpm(610Nm)
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/315/30ZR21
車両本体価格(税込み) 2254万円

■911カレラ
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4542×1852×1302mm
ホイールベース 2450mm
車両重量(DIN) 1520kg
エンジン形式 水平対向6気筒ツインターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力(システム計) 394ps/6500rpm
最大トルク(同上) 450Nm/2000-5000rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 235/40ZR19/295/35ZR20
車両本体価格(税込み) 1694万円

(ENGINE2024年9・10月号)

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