2024.11.23

LIFESTYLE

森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わった築74年の祖父母の日本家屋 建築家と文筆家の夫妻が目指した心地いい暮らしとは?

長らく放置されていた家が……

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それにしても、細部にまでこだわった、町さん夫妻の美意識の高いこと。浴室の丸い風呂桶は信楽焼で、壁には常滑で焼いたオリジナルのタイルとヒノキが張られている。奥様の仕事部屋は、茶色の家具にマッチした、薄紫の絨毯。家にある調度品や道具は、相当に吟味して選んだものだ。なかには東京のデザインギャラリーにオーダーした逸品もあれば、近くの蚤の市で偶然手に入れたものもある。そうしたお宝を飾れるよう、一階の和室奥を開放し、ギャラリースペースに変更した。

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そんな町さん夫妻のクルマ選びも、こだわり抜いたもの。町さんの愛車は、トヨタ・ランドクルーザー・プラドから乗り換えたトヨタ・ランドクルーザーJ70(1997年製)。スタイルが気に入っており、これまで人生で所有したのは、この2台のランクルのみ。「山林に分け入る時だけでなく、合板なども載せることができ、仕事の車としても重宝している」そうだ。大阪出身の奥様の帰省や、家族旅行もこのランクルなので、10年前にやってきた時は15万kmだった走行距離が、今や30万kmを超えている。

一方、奥さんが選んだのは、スバル・フォレスター・LLビーン仕様(2005年製)。子供の安全を考えて、5年前に少し大きいクルマに乗り換えた。選んだ基準は、「革の内装と木製のハンドル」。ボディ・カラーも、好みの緑である。



らくちんが基本

美しいものにこだわる町さん夫妻だが、「家は、カフェやホテルのような、外部の居心地の良い場所とは違う」と奥様は話す。家を美しく保っておくのは本当に大変だ。家で大切なのは、「手軽、らくちん、便利」。このポリシーから、ダイニング・キッチンの床はレンガにした。普段の掃除が簡単なうえ、水回りの水滴を気にせず、炊事ができたり、洗濯物を庭に干したりできるのがメリット。見栄えが良いだけでなく、楽に生活できるよう町邸は考えられている。

そんな町さん夫妻は、日本の伝統文化をとても大切にしている。自分たちの田んぼがあり、収穫したその年の最初のお米は、まず神棚と床の間にお供えする。正月飾りも、収穫した稲穂で作ったもの。味噌や梅干しも、自分たちで手作りしている。

小学4年生と3年生の2人の男の子に個室は用意されておらず、眠るのは2階の大きな和室に布団を敷いて。家にテレビはなく、勉強するのはダイニングの丸テーブルだ。学校から帰ると捕まえた昆虫で遊び、週末は父親に連れられて釣りに出かけるのが楽しみだという。

築74年の祖父母の家を改修した町さん夫妻の家には、伝統的な田舎にも大量生産品が溢れる都会にもない、なんとも素敵なライフスタイルがあった。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章



■建築家:町秋人(まちあきと) 1985年静岡県生まれ。京都精華大学デザイン学部建築分野卒業。大阪府から静岡県へUターンした後、静岡市を拠点に、静謐で美意識溢れる建築を手掛ける建築家、山田誠一氏の事務所で研鑽。独立後は、静岡県島田市を中心に、住宅(新築・改修)・商業施設(写真は「松葉畳店」)などを手掛ける。先ごろ、今回紹介した自邸がJIA東海住宅建築賞で優秀賞を受賞。今後の活躍が期待されている。
写真:RACHI SHINYA


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雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を!

◆「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」の連載一覧はこちら!

(ENGINE2024年12月号)

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