先日亡くなったスズキの初代社長を務めた鈴木修氏の誕生日である2025年1月30日に発表されたスズキ・ジムニーの5ドア版となる「ノマド」。発表されてすぐ、いや発表される前から超話題のモデルだが、そのベースとも言うべき現行型ジムニーは2018年に登場している。ノマド登場まで、どうしてこんなに時間が掛かったのだろう?
注文が多過ぎた2018年の発表時は軽自動車のジムニーと小型車のジムニー・シエラが登場している。両車ともに大きな話題となり、注文も多数殺到した。その注文が多過ぎたというのが大きな問題だった。
当初の目標は年間1万5000台ジムニーの国内年間目標台数は当初、軽仕様が1万5000台、シエラは1200台という設定だった。フルモデルチェンジ前の2017年度における先代ジムニーの販売台数は1万4008台だったので、1万5000台というスズキの目標は、それを鑑みたいい線の読みのはずだった。
ところが、これが見事に外れた。受注が山のように舞い込み、2018年度の販売台数は目標よりも1万台も多い2万5663台、2019年度が2万7941台、2020年度はついに4万4824台となる。もともとジムニーは歴代、林業など特定の業種のプロが使うクルマだったので、フルモデルチェンジしたからといって販売台数が大幅に伸びるとは予想してなかったのだ。生産ラインを増やすことなかったものの、大増産体制を取りバックオーダーを減らすべく、できる限りの努力をした。しかし、現在でもジムニーの納期は1年、ジムニー・シエラで6か月~10か月と言われている。
まずは待っているお客様を最優先そんななか、2023年1月にインドでジムニーの5ドア・モデルが発表される。このニュースが日本に届くと、「日本でも販売してほしい」という声が矢継ぎ早に上がる。当然、スズキにもこの声は届き、社内で検討されたという。
当初、日本への導入にストップをかけていたのは社長の鈴木俊宏氏であった。鈴木社長は「現在、日本でジムニーやジムニー・シエラを待っていただいているお客様がいるのに、5ドアを入れることはお客様に失礼。それより日本の生産を重視するべきだ」と考えたという。インドで作っているのだから日本には負担がないと思われがちだが、インドで生産された日本仕様のジムニー・ノマドは、ジムニーを製造している日本の湖西工場に運ばれ点検や修復をしたのちに販売される。多かれ少なかれ、日本の生産現場にも負担は掛かるというわけだ。
日本が101か国目議論を重ね、日本側の体制を整えるのに少し時間が掛かったというのがジムニー・ノマドの販売がこの時期になった理由だ。ジムニー・ノマドはワールドワイドで販売されるモデルで、これまでに100カ国で販売を開始、日本は101か国目となる。
ジムニー・ノマドの登場は、ジムニーやジムニー・シエラの購入を考えていた人にとっては選択肢が増えたことになるが、すでにジムニーやジムニー・シエラを注文済みの人はちょっと微妙な気持ちになっているかも知れない。
状況によってはオーダー変更可能しかし、普通、注文済みのクルマはキャンセルができないものだが、スズキではジムニーやジムニー・シエラからの切替も可能としている。注文したクルマが生産開始されている、もしくは生産が終了し出庫待ちになっているなどの場合は難しいかもしれないが、それでもバックオーダーのボリュームを考えればノマドに切り替えられる人は多いはず。
ジムニー、ジムニー・シエラ、ジムニー・ノマドと3機種になったことで、少しでも納期が短くなればうれしい限り……なのだが、すでに2年待ちと言われたなどという話も漏れ聞こえてきている。

文=諸星陽一、写真=諸星陽一、編集部
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