フォルクスワーゲン・ゴルフの兄貴分となるパサートが9代目に進化。セダンはラインナップから落ちたものの、質実剛健なつくりは変わらず。ゴルフ同様、こちらもベーシック・モデルでその真価を試した。モータージャーナリストの国沢光宏がリポートする。
日本市場でフォルクスワーゲン(VW)が伸び悩んでいる。理由はふたつ。2015年に発覚したディーゼルゲート&デュアルクラッチ式DSGの信頼性問題によりブランド・イメージを落としたことと、電気自動車の開発に注力した結果、日本市場で新しいクルマを出せなかったためだと思われる。2014年に年間7万台近く売れていたVWながら、10年後の2024年は2万3千台と3分の1になってしまった。
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欧州市場も苦戦中。そろそろ何とかしなければ、ということなんだろう。ここにきてエンジン搭載モデルのラインナップ拡充を始めている。カーボンニュートラルの目標は2050年。まだ25年あるので、腰を落ち着けて電動化していけばいい。
ぜひディーラーで試乗をそんなこんなで新型パサートの日本導入である。パサートといえば、なぜか初代からゴルフより控えめな存在だった。
ひと回り大きいモデルなので華美な方向性を持たせてもよかったと思うのだけれど、ゴルフよりさらに質実剛健。広い居住スペースと、ラゲッジスペースを特徴としていた。新型パサートも全く同じクルマ作りである。ただ新型からセダンはカタログからなくなり、ステーションワゴンだけに。「大きくなった」と紹介する同業者もいるけれど、今や全長4915mmはDセグメントの標準だ。
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日本に導入されるのは1.5リッター直4ターボの48Vマイルド・ハイブリッドと、同じエンジンを使うPHEV、そして少し遅れて入ってくる2リッター直4ディーゼル・ターボの3バリエーション(今回試乗できず)となる、最初にPHEVを試す。驚くべきは25.7kWhという大きな容量の電池を搭載していること。電気自動車である初代リーフが24kWhだった。EV航続距離142km!
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実用でも120kmくらい走ってくれると思う。普通の使い方なら電気自動車として使えるんじゃなかろうか。試乗してみると、モーター出力は116psということで、いわゆる「可も無く不可も無く」。日本の道路環境だと流れに乗って走る分には全く問題なし。というか電気自動車に乗ったことがある人なら解って頂けると思うけれど、エンジン車よりずっと快適だ。

ただ今回乗ったクルマはブレーキの制御に問題を抱えていた。PHEVの文法通りブレーキ・バイ・ワイヤになっており、ブレーキ・ペダルは単なるスイッチ。踏んだ強さをセンシングし、発電して電力を回収する回生ブレーキと油圧ブレーキを制御する。同じ踏力のままなら、一定の減速Gを出しながら停止するのが正常。試乗車は回生と油圧のコンビネーションが悪く、同じ踏力ながらギクシャクする。電子制御なのでアップデートできるだろうから、遠からず問題なしになるかもしれない。このあたり、試乗して確認を。
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もうひとつは乗り心地。マイルド・ハイブリッドの試乗車にはDCC Proという電子制御ダンパーが付いており、良好な乗り心地。PHEVの試乗車は付いておらず、なかなか厳しい乗り心地である。ということでPHEVを考えるならこの2点をチェックして頂きたい。
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2台目に試乗したマイルド・ハイブリッドは、久しぶりの安定した「VWですね!」だった。いや、むしろマイルド・ハイブリッドを使うようになってから滑らかになっている。というのもスタート時に18ps程度のモーターでアシストしてくれるため、DSGにありがちだった不用意な前後方向のGがほとんど無くなっているからだ。聞けばDSGの信頼性も大幅に高くなるという。
巡航状態からアクセル・ペダルを踏んだ時も、ターボのブースト上がるまでの短い時間、18psのモーターがアシストしてくれ、これまた滑らか。ターボ無しなら2500ccに相当するエンジン・トルクを楽しめる。車重は1570kgと軽く、試乗コースになっていた箱根の山道も気持ちよく走れるほど。加えて電子制御ダンパーのDCC Proが良い仕事をしてくれる。
VW好きならぜひディーラーに行って試乗して欲しい。久しぶりに「VWいいね!」と思うことだろう。
文=国沢光宏 写真=茂呂幸正
■フォルクスワーゲン・パサートeTSIエレガンス
駆動方式 フロント横置きエンジン+モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4915×1850×1500mm
ホイールベース 2840mm
トレッド 前/後 1580/1565mm
車両重量(車検証記載前後軸重) 1570kg(前900/後680kg)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16Vターボ+モーター
総排気量 1497cc
ボア×ストローク 74.5×85.9mm
最高出力 エンジン(モーター) 150ps/5000-6000rpm(18ps/4000rpm)
最大トルク エンジン(モーター) 250Nm/1500-3500rpm(56Nm/200rpm)
変速機 デュアルクラッチ式7段自動AT
サスペンション形式 前/後 マクファーソン・ストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 235/45R18 94W
車両価格(税込) 553万円
(ENGINE2025年4月号)