今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗!
斎藤慎輔さんが乗ったのは、フィアット600e、レンジローバー・スポーツ、BMW X3 M50 xドライブ、ボルボ EX40ウルトラ・ツイン・モーター、ケータハム・スーパーセブン600の5台だ!
フィアット600eラ・プリマ「嬉しい誤算」なにを考えたのか、欧州委員会なる組織の、無理難題であることは百も承知だったはずの急激なEVへの移行の押し付けに、皆が翻弄された欧州自動車メーカーにあって、フィアットも本当に頑張ったと思う。

そもそもコンパクト・カーを主とするメーカー、つまり経済性に優れ、排出ガス量も根本的に少ないクルマを主とするフィアットが、全てをEV化する計画に抵抗がなかったわけがない。でもやるからには本気でヤル。500eもそうだが600eもその本気度の現れだ。
500eと違うのは、幸いにも600eにはステランティスの中に先行してベースとなるクルマがあったことだが、もしかしてコレ、フィアットのBセグカーの中でも過去最高に快適なクルマじゃないの、と思わせる。

乗り味がイタリアンぽくない、といった声もあるけれど、ちょっと本気で走らせてみれば、可愛らしい雰囲気や、普段の優しい乗り心地からは想像できないスーパー・ハンドリングを備えているのは、嬉しい誤算だったりして、この隠し味に気づいて欲しいのデス。
レンジローバー・スポーツ・オートバイオグラフィーP550e「参りました」最近のことだが、目黒通りを走っている際に、前のクルマが最新のレンジローバー・スポーツ、つまりこれと同じモデルだったのだが、ずっと目が釘付けだった。

そのボディ・ワークの素晴らしさ、リア・ゲートとボディとの間隙の在り方、造り込み、なによりそれらがもたらす美しさ。さらに時々見えるボディ・サイドの面の美しさ、精緻さ。やっぱりこれスゴイんだわ……。惚れ惚れするというのか、ちょっとひれ伏すような気持ちになるというのか。国産メーカーのデザイナーが、レンジローバーのボディ・ラインの美しさはウチでは(いろいろ制約もあって)実現できない、と語られていたことを思い出すことになったのだった。

そこに文武両道のようなあの走り。PHEVモデルでは、EVの滑らかで上品さを携えた世界と、そこに3リットル直6エンジンを組み合わせて550psを発揮させるスポーツ性能を知って、さらに当然としてオフロードでの能力も極めて高い(走らせたことないですが信頼に足る話でしょう)となれば「参りました」です。
BMW X3 M50 xドライブ「メチャいい」2023年にモデルチェンジされたX1の出来の良さに衝撃を受け、X1で十分以上、もうX3じゃなくてもいいんじゃない、と思っていたが、今回私にとってはじめてとなる新型X3、それも今のところ最上級グレードとなるM50 xドライブに乗ってみたら、前言撤回、X1もいいけどX3はメチャいい。

新型X3は現状、全モデルが48Vマイルド・ハイブリッドで、M50 xドライブは3リットル直6エンジン・モデル。
この時点で走りが気持ちよさげなことは想像できてしまうのだが、くわえて、先代からのキャリーオーバーであるプラットフォームのブラッシュアップが効いてか、最新BMWの走り味をしっかりもたらしている。

それは日常域と、ヤル気になった時だけじゃなくてイザという時の身のこなしも含めて、キャラの違いをより明確にしている点。ふだんはこんな優しいステアフィールなのかと思いきや、イザとなれば接地感も接地変化もきっちり伝えて正確な操作を可能にする。真価は当然、目立つインテリアの刷新に留まらずです。
ボルボ EX40ウルトラ・ツイン・モーター「加速も速いが、変化も早い」早い、とにかく早い。ボルボEX40もBEVだけあってもちろん加速も速いけれども、改良の手を緩めずに突き進んでいく感じの進化、変化の早さがすごい。

ボルボ初純EVとしてデビューしたXC40リチャージは、当初はシングル・モーターの前輪駆動とツイン・モーターの4輪駆動だったが、気づけばシングル・モーターは後輪駆動へと驚きの変更がなされ、そして2024年末から導入のEX40へと改名した最新型では、ツイン・モーター・モデルが、以前の前後輪同出力タイプから、前輪側出力を低くし後輪側出力を逆に高くしてきている。

なるほどこれが気持ちよく素直に曲がるわけなのか、などというのは以前ならば「らしくない」というべきところだが、それが安全にもつながるものならば、パワートレインの特性を活かさない手はない。
いち早く完全EVメーカーへの移行を目指していたボルボも、ここへ来て軌道修正を余儀無くされているが、環境性能と安全性能を突き詰める中で、以前のような退屈な走りとは決別した感があるのは面白い。
ケータハム・スーパーセブン600「時を止めてくれている」時が止まっている。止めてくれているというべきかもしれない。
スズキの「軽」に搭載の縦置き直列3気筒658ccターボ・エンジンを載せたスーパーセブン600は、2014年発売のスーパーセブン160から続く、軽規格(に収めた)セブンだ。

聞けば、国内で売れるスーパーセブンのうち8割が「軽」セブンだそうだが、この600は内外装がやけに瀟洒だ。でも、走らせてみればこれまで通り。何も変わっていない。
普段走りの領域から楽しめるのは、もちろん地べたがすぐそこの位置に座って、速度感が他のクルマとは違うこと。ちょっとした加速のつもりでも1速から3速まですぐにレブ・リミッターが作動域に達しても、体感ほどに速度は上がっていない。

だからこそ楽しめるわけで、なんたって車重は440kgしかないので、箱根の上りも4速でグイグイいけてしまう。でも、これまた面白いのは、曲がるのはオン・ザ・レール感じゃないこと。まだまだグリップしているのに闘っている感覚、これがクセになるんです。
「見ていて心躍る、だけでなく」斎藤慎輔から見た、いまのガイシャのここがスゴい!100年に一度の変革期という中で、どの方向へ向かうべきか、何を優先すべきか、苦慮しているのはガイシャも日本車もそう変わらないでしょう。ただ、ガイシャ・メーカーはこうと決めたら突き進むスピードが早いです。
今回も実車を見ていてつくづく思いました。決定が早いが故に失敗もあるので、ほら見たことか、みたいに思われるフシもありますけど、伝統や歴史あるメーカーまでが、一度でもICEと完全結別する勇気を持てたりするのはスゴいことです。

それでいて乗り味や特色はしっかり守ろうとしているのが分かります。
それと、スーパー・スポーツや超高級車といった華やかでいて高い技術力を要するクルマは、単に速さや豪華さや最新トレンドなどで受け入れられるものではなく、そこに歴史や物語が培われてきたからこそ、ということもよく分かります。
見ていて心躍るのはもちろん、教えられる、学べる、ガイシャはそういう存在であり続けています。
文=斎藤慎輔
(ENGINE2025年4月号)