並外れた演奏スキルとセンス、そして個性を持ち合わせた、女性ギタリストのマヤ・デライラとメイ・シモネス。これからの飛躍が期待される2人に大きな注目が集まっている。
ギターは男性の楽器?
「ギターが男性の楽器のように認識されているのが嫌で、その状況を変える活躍をしたかった」
と、マヤ・デライラは言う。「私がギターを弾いている動画を見て、SNSに男尊女卑的なコメントをつける人が未だにいる。あと、“ギターを始めたいけど女性ギタリストの価値を認めて推してくれる人が少ないから自信が持てない”といったメッセージが女の子から届くこともある。そんなことないよって、私は身をもって提唱したいんです」

確かに「ギターは男性の楽器」という古臭くて馬鹿みたいな偏見を持つ人は今でもいる。が、少しずつ状況が変化していることも確かで、マヤは「女性で素晴らしいギター表現をする人は確実に増えている。例えばH.E.R.。彼女の活躍にはとても刺激を受けます」とも話す。
マヤ・デライラ、それからメイ・シモネス。このふたりのギタリスト/シンガー・ソングライターは並外れた演奏スキルとセンスと知性と個性を持ち、古臭い考えを持った人々の偏見など蹴散らすほどの活躍をこの先見せることだろう。
マヤ・デライラは英国北ロンドン出身の24歳。幼少期にピアノを学んだ後8歳でギターに転向し、アデルらを輩出した名門ブリット・スクールに進学。16歳の頃からSNSにギター演奏動画を投稿するようになって注目を集めた。そしてインディーで2作のEPを発表後、2022年にブルーノート・レコードと契約。先頃発表された初アルバム『ロング・ウェイ・ラウンド』は、初期のノラ・ジョーンズを想起させる落ち着いたスローからプリンスを想起させるファンクまで多彩な曲が並ぶ力作となった。

一方、メイ・シモネスは日本人の母親を持つ米国ミシガン州出身の24歳(マヤと同い年)。4歳でピアノを始め、11歳でギターに転向。バークリー音楽大学でジャズを中心にギターを学び、EPなどを発表後、2022年からNYのブルックリンを拠点に活動するようになった。
5月に発売の初アルバム『アニマル』はボサノヴァとインディー・ロックがユニークな塩梅で混ざりあって同居した挑戦的かつ洗練された作品。日本語詞の曲もいくつかあるが、大胆かつ複雑な曲展開にしろ麗しいストリングスを用いた映画音楽的なサウンドにしろ、J-POPとは一線を画す音楽性の高さに唸らされる。
ギタリストとしてはデレク・トラックスやB.B.キングらブルーズマンからの影響を語りつつ、一方でタイラー・ザ・クリエイターからの影響も語るマヤ。ウェス・モンゴメリーのギターに憧れ、ジョアン・ジルベルトのボサノヴァに強く惹かれつつ、ニルヴァーナからの影響も語るメイ。同時にジャズも吸収し、それぞれの解釈で表現している、そんなふたりはフジロックへの出演も決まっている。とても楽しみだ。
MAYA DELILAH/マヤ・デライラ
北ロンドン出身のマヤ・デライラによる1stアルバム『ロング・ウェイ・ラウンド』(ユニバーサル)。インディーでのEPはソウルミュージック的な構成の曲をポップに聴かせていたが、今作は「私のなかのいろんな音楽要素を組み合わせたもの」。「ソフトな歌い方に影響を受けた」というノラ・ジョーンズっぽさのある曲から、フォーキーでありながらアフリカ音楽の影響も見て取れる曲まで、実に幅広い。24歳にしては渋みのある音楽性で、歌声もまた落ち着いたトーンだ。
MEI SEMONES/メイ・シモネス
ブルックリンを拠点に活動する日系アーティスト、メイ・シモネスの1stアルバム『アニマル』(ビッグ・ナッシング。5/2発売)。日本語と英語を交えた歌詞と、ジャズ、ボサノヴァ、インディー・ロックをブレンドさせたサウンドに加え、力の抜けたキュートで自然体の歌声も魅力的。展開の大胆な曲が多いが、風通しがいい。昨年夏にコネチカット州の農場にあるスタジオで録音されたとあって、初夏に自然のなかで聴くとよさが倍増しそう。ジャケの絵は彼女の母親によるもの。
文=内本順一(音楽ライター)
(ENGINE2025年6月号)