BMWジャパンは、フラッグシップSUVであるBMW X7をベースに、日本市場限定の特別仕様車「BMW X7 BLACK-α(ブラック・アルファ)」を発表した。
伝統工芸と最新技術の融合
100台限定で販売される本モデルは、日本の伝統工芸とBMWの最新技術が融合した、かつてないプレミアムな1台に仕上がっている。

100台の内訳はディーゼル・モデルのxDrive40d(90台)と、V8ガソリン・エンジンを搭載するM60i xDrive(9台)となる。残る1台は、BMWがタイトル・スポンサーを務めるBMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップの優勝副賞として用意される。
5月9日に行われた発表会では、BMWの開発思想と、日本のクラフトマンシップの融合についてのトーク・セッションが開催された。登壇したのは、BMWジャパンの御舘康成氏、演出家の宮本亜門氏、漆芸作家の服部一斎氏、川島織物セルコンの磯傑氏。

彼らの言葉から、本モデルが単なる限定車にとどまらない文化的提案であることが見えてきた。
究極の黒に込められた日本独自の感性
BMW X7ブラック・アルファは、同社のカスタマイズ・プログラムであるBMW Individualのフローズン・ブラック・メタリックによる、漆黒のボディをまとっている。その黒は、単なる色ではない。御舘氏は「深い黒にエレガンスや美意識を感じるのは日本人独特の感性」と語る。その感性に寄り添う形で、職人の手による工芸が車内外に息づいている。

たとえば、センター・コンソールに施された専用バッジは、富山県高岡のモメンタムファクトリー・Oriが手がけた真鍮製。レーザー彫刻を施した上で、純銀調の色味を手作業で塗布している。
ドア開閉時に足元を照らすプロジェクターからは”α”の文字が浮かび上がり、乗車時の高揚感を演出する。
M60iモデルにのみ与えられた特別な意匠
X7 M60i xDrive ブラック・アルファには、さらに特別な装飾が施される。服部氏による漆蒔絵と螺鈿の装飾トリムが、センター・コンソールやインストゥルメント・パネルまわりを彩る。そのモチーフは、”時つ風”と呼ばれる縁起の良い追い風。銀粉や白蝶貝の繊細なきらめきが、漆の奥行きとともに深みを生む。

また、足元を飾るのは川島織物セルコン製の専用フロア・マット。1843年創業の老舗が手掛けたウール製のこのマットは、染色から織りまで全て職人の手によるもの。

宮本氏は「足が浮くような感覚」とその質感を称賛し、「本物の贅沢を知らない世代にこそ伝えたい」と語った。
工芸とテクノロジーが融合することで生まれる新たな強さ
「自然素材は弱いのでは?」という御舘氏の疑念を覆したのが、川島織物セルコンの技術力だった。ウールを高密度に織り上げ、防汚・防炎性能を両立。磯氏は「伝統を守るとは、単に過去を模倣することではない。若い職人が挑戦できる土壌をつくること」と語り、サステナビリティと職人文化の共存を示した。

一方で服部氏は「ピアノ・ブラックの内装にキズひとつ付けられない緊張感の中で、蒔絵の技術を注ぎ込んだ」と振り返る。漆芸と自動車内装という異なる領域の出会いが、職人としての成長にも繋がったという。
最後に宮本氏は、松尾芭蕉の「不易流行」を引用して、このプロジェクトやBMW X7 ブラック・アルファを「本質は変えず、時代とともに形を変える」ことで価値が高まっている評し、まさにこのプロジェクトの核心を突いていた。
日本文化とBMWの哲学が出会ったこの1台は、単なる特別仕様車ではなく、時代を映すアートピースでもあるのだ。
価格は、BMW X7 xDrive40dブラック・アルファが1625万円、X7 M60i xDrive ブラック・アルファが2140万円。
文=佐藤 玄(ENGINE編集部) 写真=BMW/ENGINE編集部
(ENGINE Webオリジナル)