1941年の軍用車両を祖に持つジープ。大人気を博した7世代目のCJ7と現行型ジープ・ラングラーを並べて、その魅力を探ってみた。
初心を貫いている
ジープ・ラングラーのデザインがカッコイイのか、そうでないのかは別にして、みんなが好きなのは確かだと思う。そうでなければこれだけ初号機をオマージュして進化したりはしない。先代のJK型から“丸型ヘッドライト+7スロットグリル”を前面に押し出し「これがジープだ!」と強調しているが、それ以外にも伝統を受け継いでいる部分は多い。フェンダーの形状、倒れるフロント・ウィンドウ、外ヒンジのドア、テールランプの造形云々とたくさんある。というか、ほとんどがそう。年々厳しくなる側面衝突やロールオーバー・テストの基準をクリアしながら、初心を貫いている。

ジープの影響
それにジープ以外でもこういったデザインの人気が高いのは確か。例えば軍用車ハンヴィーを市販化したハマーH1もそのひとつである。
1970年からジープ・ブランドを所有していたAMC(アメリカン・モータース・カンパニー)の軍用部門AMゼネラルはアメリカ陸軍に売り込むためにハンヴィーをつくったが、それはまさにラングラーを大きくしたものだった。丸型ヘッドライトと縦型のグリルがあり、その外側に大きく張り出したフェンダーを持つ。ヒンジは外側で、ドアはいつでも取り外せる。それに映画俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏が目をつけ、ハマーH1誕生に至り、アメリカを中心に世界中で大人気になったのだから間違いない。1980年代末の話だ。

これ以外にもジープは自動車業界に大きな影響を与えている。まだ登録商標が決まっていない時代に生まれた1950年型トヨタBJジープもそうだし、ライセンス契約でつくられていた三菱ジープもそう。そこから後のランクルやパジェロが生まれた。ランドローバーも同じ。1948年に誕生したこのブランドも始祖はジープ。GIが英国に残していった軍用ジープMB型にインスパイアされてランドローバー・シリーズ1が誕生した。実際に運転したことがあるが、ジープの影響を大きく受けていたのは明白だ。現代で言えばスズキ・ジムニーがそれに当たる。3ドアでも納車困難なほど大人気なのに、5ドアが出てさらにプレミアム度は高まった。学生時代SJ30型に乗っていた身からしても興味津々である。

といったことからもわかるようにこのデザインはみんな大好き。スクエアなフォルムを見て、メンズはワイルドでカッコイイと言い、レディはかわいいと言う。
機能優先
では、好感度の高いデザインはどうやって生まれたかというと、機能優先で出来上がった。ご存知のように要件を求めたのはアメリカ陸軍。第二次大戦の戦地での移動手段としてオーダーした。第一次大戦ではバイクやサイドカーでまかなっていたが、それに代わる物として自動車業界に要件を投げた。

要件とは、軽さを求めた重量、乗車定員、少ない部品点数、修理のしやすさ、クリアランスを含む悪路での走行性能、コストなどなど。それに対応するため、外ヒンジだったり、独立したフェンダーだったりする。戦地でドアは必要ない時もあるし、フェンダーが出ていた方がタイヤ交換はしやすい。それにガラスを湾曲にしなかったのは割れたらすぐに取り替えられるから。まぁ、ウィンド・シールドは前へ倒すからあまり関係ないかも。ボンネットが外から開けられるのもそう。いちいち運転席の足元のレバーを引きに行かなくて済む。フックを外すだけでOK。開口角度はウィンド・シールドに当たるまで。要するに手間が省けて単純なのが要件。ワンアクションでも減らさないといけない。戦地で要求される機動力とはそんなところだ。ジープはデザイナーが作業するプロセスをかなり省略し、技術者主導でつくられたのである。
それにしても今回CJ型と最新のJL型を並べてみてもわかるようにうまい具合にジープの祖であるMA型、MB型からのデザインを受け継いでいる。デザイナーの力量だろう。もちろん現代の自動車を取り巻く要件にそぐわなくてはならないためドアは厚くなり、クラッシャブル・ゾーンを確保しなくてはならなくなる。が、それを見事にクリアする。
CJ型とJL型の大きな違いはエンジンと四駆システムがあるが、ここではリア・シートと言っておこう。そもそもジープの後部は人が乗れるもんじゃない。戦地でも将校が自らハンドルを握っていたくらいだ。だが、今は4ドアがデフォルトとなり後席でのロング・ドライブを可能にしている。今日の人気の要因はこれだろう。
文=九島辰也 写真=神村 聖
(ENGINE2025年7月号)