2025.08.18

LIFESTYLE

大阪関西万博の大屋根リングで注目を集める建築家、藤本壮介の創作の秘密に迫る 『藤本壮介の建築:原初・未来・森』が森美術館で開催中

南仏モンペリエ市の、113戸、17階建ての集合住宅。大きく張り出したバルコニーが特徴で、住人同士のコミュニケーションの場にもなっている。屋上のバーや1階のレストラン、2階のギャラリーなど、住人以外も使えるのが人気の秘密。《ラルブル・ブラン(白い樹)》2019年フランス、モンペリエ 撮影:イワン・バーン

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大阪・関西万博を象徴する「大屋根リング」など、次々に話題の建築物を手掛ける藤本壮介。そんな彼の創作の秘密に迫る初の大規模個展が開催されている。ご存知、デザインプロデューサーのジョースズキがリポートする。

独創的な建物が静かな町に観光客を呼び寄せる

写真を見て「本当に存在するのか?」と驚くような建物を、これまで数多く手掛けてきた建築家の藤本壮介。海外からの評価も高く、ここ数年でプロジェクトは国際的に広がっている。

東京の住宅密集地に建つ個人邸。ガラス張りのキューブを階段でつないだだけの構造。ガレージは2CVを停めることを想定して設計されており、未来的だが柔らかな印象の建物との対比が面白い。《House NA》2011年 東京 撮影:イワン・バーン

いちばん上の写真は南仏に建てられた集合住宅で、市民からの人気も高い。前橋市の白井屋ホテルの改修も評判となり、たった一軒の独創的な建物が、静かな町に観光客を呼び寄せている。

そして大阪・関西万博のシンボルである大屋根リング。実際に藤本建築を訪れた人の多くは、「楽しい」と口にする。藤本壮介は、1970年以降に生まれた日本の建築家の中では、最も活躍している人物だ。

藤本壮介(1971年生まれ)2000年の《青森県立美術館設計競技案》で注目を集めたのち、《サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013》で世界的な建築家の仲間入りを。現在開催中の2025年大阪・関西万博の会場デザイン・プロデューサー。撮影:デビッド・ヴィンティナー。

殆どの建築家は、大学卒業後はアトリエ系の建築事務所で修業し、それから独立する。ところが藤本は、そうした経験なしに自身の建築事務所を立ち上げた。北海道の森で育ったことも、彼の考え方に大きく影響しているという。こうして生まれた創造性豊かな建物は、美術業界でも早くから注目されていた。

創造的な建築の秘密

そんな藤本の大規模展、「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が、東京六本木の森美術館で始まった。

これが、面白い。図面と模型だけの展覧会とはせずに、多角的に藤本建築の魅力を見せようとしているのだ。

展覧会では高さ4mになる、1/5サイズの大屋根リングの模型を展示。展示風景:「藤本壮介の建築:原初・未来・森」森美術館(東京)2025年、撮影:八代哲弥、画像提供:森美術館

例えば、藤本建築に着想を得たテーマの書籍を読めるようにしたり、藤本建築がぬいぐるみとなってお喋りしたり。こうした試みが、模型などが根幹となる展示の魅力を際立たせている。大屋根リングの1/ 5の模型は、構造もさることながら、そのスケールに圧倒される。数多く展示されたスケッチは、意外にも手書きであることに親近感さえ覚えた。

だが、この展覧会のハイライトは、300平方メートルある空間に、1200もの模型が、インスタレーションのように飾られた、最初の展示室だろう。

なかでも筆者が感銘を受けたのは、ポテトチップやマッチ箱を重ねただけでも、魅力的な建物になると示した「模型」だ。

もともとは海外の美術館の企画だったものを、わざわざ許可をとってまで展示したものである。発想の転換だけで、意外と簡単に創造的な建物が生まれるのだ。建築には、まだまだ無限の可能性があることを示した展覧会である。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)

■『藤本壮介の建築:原初・未来・森』は、東京・六本木の森美術館(六本木ヒルズ森タワー25 53階)で11月9日まで開催。問い合わせ=050-5541-8600(ハローダイヤル)

(ENGINE2025年9・10月号)

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