フェラーリが、デジタル・モデルの「F76」を公開した。ルイジ・キネッティとセルスドン男爵が、トゥーリング製のバルケッタ・ボディをまとう「166MM」でル・マンを初制覇したのが76年前だったことにちなんで命名された。
バーチャルで具現化した未来の跳ね馬のデザイン
マラネロが、最新の生成デザインやデジタル技術と、自社のレースの伝統を融合し、ブランド体験の新たな地平を切り拓く先駆的なバーチャル・プロジェクト、と意気込む「F76」。

それは単なるCGモデルではなく、新たなデザイン・マニフェストだというが、これは最近、同じイタリアのボローニャあたりからも聞こえてきた気がするフレーズだ。

双胴式のボディは、エア・フローのマネージメントを極限かで突き詰めた結果だ。翼形状と磨き込んだジオメトリーは、パフォーマンスを高め、既存のルールを越えるためにデザインされた。

左右席のセルを区切ったキャビンは、ボディ・ワークとアンダー・ボディの新たな接し方を可能とし、中央部に走行風を通すチャンネルを設置。ボディをウイングとして使えるようになり、グラウンド・エフェクトを最大化する。

「849テスタロッサ」のような鋭角に突き出したノーズとエアダム、そして可動式の4連ライトで構成される顔つきは、どことなく「288GTO」を思わせる。フローティング構造のスプリッターやノーズ上のスリットは、最新スペチアーレの「F80」をさらに極端にしたような仕立てだ。

前後フェンダーの垂直に切られたラインも「F80」に似たもので、彫刻的なボディとのコントラストが際立つ。立体的に刻まれたルーバーも特徴的だ。

フロントで分割された気流が合流するリアには、上部に第2のウイングが設置され、独特なディフューザーの効率を高める。このリア周りの通気経路は、メカニズムからの熱も効果的に排出する。

上面がフラットなテール・エンドは、1970年代のレースを戦ったスポーツ・プロトを彷彿させる。

ドライブ・バイ・ワイヤの採用で、キャビンは左右どちらの席も運転席として使用可能。両席ともにステアリング・ホイールやペダルが設置され、使用しないほうは格納できる。

この「F76」はNFT、すなわちコピーできないデータによるデジタル資産として、富裕層向けプログラムのハイパー・クラブ会員へ提供。クライアントの要望に応じたカスタマイズ・オプションも用意され、その収益は「499P」のレース活動のサポートに充てられる。

実体のないクルマに莫大なカネを払う、という感覚は理解し難いものがあるが、ハイパー・クラブの超リッチな会員であれば、高いお布施とはまったく思わないのかもしれない。
文=関 耕一郎
(ENGINE Webオリジナル)