放送作家、脚本家として活躍する小山薫堂氏は、食にも造詣が深い。今年大きな盛り上がりを見せた大阪万博では「食を通じて、いのちを考える」をテーマに、「アースマート」というパビリオンをプロデュースした。そのバックボーンとなったのが、2012年から経営を担っている京都の高級料亭・下鴨茶寮。毎年ブラッシュアップを重ねているという老舗自慢のおせち料理の季節がやって来た。
老舗料亭をアップデート
下鴨茶寮は安政三年の創業、京都下鴨神社の御用達包丁人という栄えある歴史を持つ老舗料亭。だが諸事情により存続が難しくなり、小山氏へ事業継承の打診があった。「小さな店でも美味しい料理を出す」という食通好みの街としても京都好きの小山氏だったが、それまで下鴨茶寮へ行ったことがなかった。それでも京都の料理と料亭が持つ文化的なポテンシャルに惹かれ、2012年に代表取締役に就任。伝統を尊重しながら少しずつ現代的な感覚でアップデートを試み、ECサイトの開設、下鴨文化茶論と銘打ったサロンイベント、ワークショップなどでカルチャーの発信地をつくってきた。もちろん、食においても温故知新を繰り返している。
「70年の大阪万博で岡本太郎は『進歩は未来のものを探すのではなく、過去にある大切なものを見つけて未来へつないでいく』と語っていました。私はこれを聞いて食についても同じことだと思いました」

▲古代の京都を開いた下賀茂建角身命を祀る下鴨神社。その食事を供する役を担い続けている。
▲代表取締役の小山薫堂氏(右)と総料理長の本山直隆氏。東京で研鑽を積み、下鴨茶寮本店の総料理長に抜擢された本山氏は、京料理の未来を担う存在。京料理を供する側になったことで和食の奥深さを再発見した経験は、アヴァンギャルドな芸術家とひと言に化学反応を起こし、万博のアースマートで掲げた「アースフーズ25」へと発展する。これは日本では当たり前と思われている食でも、海外の人には知られていない25品目※を提示し、世界の人と共有しようという試みだった。そのひとつに梅干しがある。
「2012年に英国王室アカデミーが『人類の食の価値観を変えた発明20』というリストを発表しました。その上位3位が冷凍・冷蔵庫、殺菌技術、缶詰という保存に関するものです。梅干しは、電気を使わなくても何十年と保存ができる。日本が誇る最強のフードテックだと思います」
海に囲まれた国ゆえに魚料理についても先進国だ。
「フグは日本のほか、中国・韓国それぞれの一部でしか食べられません。でもフグは世界中の海で泳いでいます。毒を取り除く日本の技術を世界に伝えられたら、新たなタンパク資源を提案することができます」