2025.11.21

CARS

伝説のアドベンチャーラリーが復活 ディフェンダー トロフィーの国内予選会で日本代表が決定 新しい冒険がはじまった

ディフェンダー トロフィーの日本代表に選ばれた今村直樹さん。不屈のチャレンジ精神と類まれなコミュニケーション力を持つナイスガイだ。

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11月8日と9日の2日間、山梨県の富士ヶ嶺オフロードを舞台にディフェンダー トロフィーの国内予選会が行われた。

トロフィーと聞いて多くの人が思い出すのは1980年代から2000年まで続いた、黄色いボディカラーのランドローバーの車両が道なき道を行くラリーレイドのキャメルトロフィーだろう。



世界一過酷な冒険レースと言われ、四輪駆動車の操縦テクニックだけでなく、スキューバダイビングやクライミング、ラフティングなど、人間が大自然とどう向き合うかが試され、時にはライバルチーム同士が助け合いながら様々な試練を克服してゆく姿は多くの共感を生んだ。

その精神は後のランドローバーG4チャレンジに引き継がれ、参加チームの支えとなったランドローバー車両のレンジローバーやディスカバリーは、世代を経た現在も冒険心を秘めた多くの人々に愛され続けている。



そんな伝説のラリーレイドに着想を得た新たなアドベンチャー・コンペティションが、2026年、ディフェンダー トロフィーとして開催される。グローバルファイナルが行われるのはアフリカだ。今回はその日本代表を選出する国内予選の現場を取材した。

横殴りの雨が降る絶好の天気

予選会場となった富士ヶ嶺オフロードに集まったのは、200名を超える応募者のなかから書類選考を経て選ばれた男女合わせて24名のチャレンジャーだ。

参加に必要な条件は実にシンプル。保険加入に必要な23歳以上であること。日本国内で有効な運転免許を所持していること。日常生活レベルの英語が使えること。50m以上泳げること。日本が発行するパスポートを所持し、飛行機での移動が可能なこと。

これらの条件に加え、書類選考時には英文によるセルフアピールの提出が求められたという。



取材に入ったのは予選2日目の朝。前日は良好な天気だったというが、この日、富士山麓の斜面に位置する富士ヶ嶺オフロードの選考会場には、朝から冷たい雨が降っていた。参加者にとっては試練の雨だが、選考する側にとっては絶好の天候と言える。

朝からの雨は次第に強まり、風が吹くと横殴りとなった。そんななかで参加者が競うのは冒険者に求められる知力、体力、コミュニケーションスキルだ。環境条件が厳しくなればなるほど精神的肉体的な過酷さが増し、チームワークはもちろん自分自身のコントロールも難しくなる。試されるのはそのときどう行動するかだ。



24名の参加者は3名が1チームとなって用意された競技に挑む。その競技には大きく車両(ディフェンダー)を使うものと、フィットネスと呼ばれるフィジカルが試されるものがあり、取材した2日目はフィットネスと丸太で橋をかけて渡るグランドブリッジや、ウインチで障害物の丸太を撤去しながらオフロードを走行するウインチ&オフロードなどの車両競技が行われた。

なかでもグランドブリッジはビジュアル的には見栄えがするが、2トン超えのディフェンダーが渡る橋を丸太でつくるのは決して簡単ではない。すでに2本の丸太が設置された仮設ブリッジに残りの2本を乗せて完成させるのが1つ目のハードルだが、雨で滑る太い丸太を2チーム6人が力を合わせて抱き抱えて所定の位置に乗せるだけでも、みるみる体力が奪われていくのがわかる。



乗せた丸太を固定する太いロープは雨をたっぷり吸ってゴワゴワに固くなり、思うように結べない。特殊なロープワークが必要だが、雨と計測される時間が焦りを生むのか手順どおりに結べず何度も最初からやり直す姿が何度も見られた。結びが甘ければ車両が落下する危険があるので作業に妥協は許されない。



刻々と時間が過ぎるなか、仲間同士どう励まし合い、叱咤激励しながらどうやり遂げるのかは審査の重要なポイントでもある。

橋が完成しても気は抜けない。左右2本ずつの丸太の上にタイヤを乗せるわけだが、侵入角が少しでもずれていると車両は丸太から滑り落ちてしまう。ドライバーからは4本のタイヤの正確な位置まではわからない。誘導者がハンドサインで微妙なハンドル操作と速度を指示し、ドライバーはその意図を汲み取ってディフェンダーを操縦する。



正しく指示できるのかを見るのはもちろんだが、お互いを信頼することができるかどうか、信頼関係が構築できるかどうかが試される局面というわけだ。

今回新たに始まったディフェンダー トロフィー。実は1980年代のキャメルトロフィー時代とは大きく違うところがある。それは車両性能が格段に向上していることだ。特に車両の走行性能をコントロールする現在の電子制御技術は眼をみはる。かつては高度なドライビングテクニックが必要だったオフロードのダウンヒルやヒルクライム、泥濘地の脱出も、経験の少ないドライバーでも安全に運転できるようになっている。



なかでも特別に走破能力の高いディフェンダーを使用するこのアドベンチャー・コンペティションで重要なことは何なのか。取材を通して感じたのは、大事なのは操作する側の人間だということだった。

どんなに電子制御技術が進んでも、いくらナビゲーションが発達しても、大事なのはそれを扱う人の知力や経験や胆力に根差した人間力ではないか。それは電動化や自動運転、AIとの共存というこの先の未来においてますます重要になるテーマでもある。ディフェンダー トロフィーは壮大な冒険のなかで人間同士のコミュニケーションがいかに大切かを改めておしえてくれていると思った。そしてそのとき、ディフェンダーは仲間同士をつなぐ強力なパートナーなのだということも。



それを強く感じたのはファイナルリザルト発表のときだ。日本代表に選ばれたのは今村直樹さんだが、そのプロフィールがとても興味深い。実は彼には結果発表の前に偶然話を聞いていた。びっくりしたのは今村さんの胸板の厚さだ。いったい何をしたらこうなるのかと尋ねたら、アウトリガーカヌーのパドラーだという。アウトリガーカヌーは、かつてはポリネシア民族が外洋航海もしたという大型カヌーで、現在は国際的な大会も開催されるチームで競うオーシャンスポーツだ。今村さんはそんなアウトリガーカヌーで海峡横断レースにもチャレンジする強者だった。



クルマの運転より得意なのは船を漕ぐことと言っていた今村さん。代表として名前が読み上げられると、驚きを隠せない様子で「なんで僕が」と声をあげていた。そんな今村さんがディフェンダー トロフィーに応募した理由は「48歳という年齢だからこそ何かにチャレンジしたい」という思いからだったという。

実は選考会に参加した24名のなかにはラリーレイドの経験者も何人かいたが、そうではない今村さんが選ばれたのは、まさにクルーが呼吸を合わせひとつになることが求められるアウトリガーカヌーの経験が生きたからだろう。



ディフェンダー担当のマネージング・ディレクターのマーク・キャメロン氏は、そんな今村さんを「これから待ち受けるグローバルファイナルでも、彼の挑戦(チャレンジ)が世界中の人々にポジティブな影響を与えると確信しています」と讃えている。

今村さんが挑む来年のグローバルファイナルには世界中から挑戦者が集まってくる。その国や地域の数は60以上。アフリカの地に集った代表者たちは、人種や国境を越えて新たなチームを組む。アフリカでは自然保護というこれまでになかった新しいテーマにディフェンダーと共に挑むことになる。

新たな冒険はもうはじまっているのだ。

取材・文=塩澤則浩 写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン



(ENGINE Webオリジナル)

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